※神立ち設定(出雲)

、出かけるぞ!」

まだ日も明けきらぬ内から政宗が起こしに来た。それと低血圧のせいもあっての機嫌はすこぶる悪い。が、政宗は意に介さずを背に乗せて悠々と湧水の道を進む。政宗と会ってからこのように彼のわがままに振り回されるということは日常茶飯事と化してきたので、はもはや文句を言う気力すらなかった。それよりもどちらかというとその政宗との様子を好奇の目で見る神々の視線が気になる。
既に竜と化した政宗の背に乗る、というのがの中では移動手段の常識となっていたが、神々にとってそれは天変地異に等しい光景だった。誇り高き龍神の彼らが背に誰かを、ましてや人の子を乗せるということは有り得ない。だからこそその頂点に君臨する政宗の背に跨る少女は誰ぞや、と言った調子だろう。

「ねえ、なんでこんなに見られてるの?」
「人の形をしたじゃじゃ馬が珍しいだけだろ」
「なんですって!」

政宗に聞いたのが馬鹿だったとは諦めた。意趣返しにとも神々を観察してみる。変わった形のもの、一目でそれと分かるもの、大から小までまさに多種多様、八百万の神々であった。それが京都を思われる日本家屋からずらずらと身を乗り出しているのだから、圧巻だ。
そうしてひとつの角にある邸に着くと、政宗は人型に戻り、水に落ちないようごく自然にを横抱きに抱えて玄関に上がった。

「こ、ここなの?」
「ああ。島津のじじい、いるだろ」
「……んん?おおっ、政宗どん!!」

奥からどすどすと音を立てて、巨漢がのそっと顔を出す。一見すると暗闇に顔だけが宙に浮いているようで驚いたがそのまま政宗の首を絞めるように抱きついた。

「噂どおりまっこと仲のいい夫婦だげんのう!よかよか」
「ふ、夫婦!?」

さすがに聞き捨てならないと思ったのか、はその言葉に反応した。ここまで噂が届いているとは、伊達包囲網恐るべし。

「違います。政宗と夫婦というのは事実無根です」
「へ〜、政宗もとうとう嫁を取ったのか」
「That's right.」
「アンタも肯定するなッ!」

続いて元気な男の子がひょいと後ろから現れた。無邪気な子供の言葉に便乗するものだから、慌てて政宗の腕から逃れて、その頭を叩いてやる。
政宗に紹介してもらい、剣の神島津義弘と、剣の申し子(眷属)宮本武蔵の邸を訪れたことが分かった。

「今日はどげんしたかね?」
「近々大きな戦を起こすつもりでね、こいつを鍛えて貰おうと思った」

鎧櫃のような黒塗りの箱を島津の前に政宗が置く。拝見、と言って島津が明けるとそこには六つの刀が無造作に納まっていた。

「六本もどうするのよ」
「お姉さん知らねーの?独眼竜といえば六爪流の使い手だよ」
「えっ、これ全部持つの!?」
「あたりめーだろ」

今更何を、とさも当然ように政宗がのたまうものだからの驚きは一入だった。彼が本気を見せて戦ったのは石田三成の時、それだけ。あの時は武器すら取っていなかった政宗だが、まさかこんな彼特有の得物があるとは想像もつかなかった。
島津は一日あればと言って奥へ引きこもった。その間に、二人は縁側に通されて、三色団子を馳走になる。

「前から思ってたけど、神様が人間と変わらず同じものを食べているっていうのも不思議よね」

最後のよもぎ餅を横からスッと抜きながら、しみじみとは感想を零した。

「そうかあ?人間は神棚に供え物をするだろ。あれで味を占めたんじゃねえの」
「それは一理ある」

もうひとつ、とは手を伸ばしたところで政宗の手と偶然にも重なった。

「……っ!」

思わず凄い勢いで手を引っ込めてしまう。それを見た政宗がいやらしく唇を歪めたため、なおさら穴があったら入りたいほど気恥ずかしくなった。
考えても見ればこうして政宗と二人っきりで出かけて、彼の用事に付き合って、一緒にご飯を食べている……色気はないものの立派なデートではないのか?その事実に気づいてますますは項垂れた。これは夫婦と野次られても仕方の無い行動である。

「なんだ、照れてんのか?」
「ち、ちが」

思わずどもった声が照れている証拠だ。の分かりやすい行動に政宗は笑みを深くした。

「デート、だもんなァ」
「!!」

まるで心を見透かしたような政宗の言動にの心臓が飛び跳ねたのは言うまでもない。


(120209) カナさんへ