季節は夏、さんさんと照りつける太陽、青い大海原、人で溢れかえるビーチ。は潮の風に胸を弾ませながら、麦藁帽子を脱いだ。思いかなって結ばれた恋人、政宗の別荘に招かれた先にこのようなイベントが待っているとは。幸せを感じずにはいられない。
既に胸いっぱいのに、政宗は車から降ろした荷物を投げてよこす。

「なにこれ」
「まさか裸で泳ぐわけにもいかねえだろ」
「え、水着買っておいてくれたの?」
「Of course.場所取っといてやるから、その間着替えて来い」
「ありがとう!」
「…礼を言われるまでもねえさ」
「?」

どことなく含みのある言い方をされて、気になったもののさっそく政宗に見せてあげようとは備え付けの更衣室で着替えようとした。しかし中味を開いた時点で心が挫けそうになる。

「これを…わたしに着ろっていうの…」

それはあまりにも露出の多く、またそれに比例して布面積の狭い水着だった。おまけに色は大胆にも黒で統一され、非常にセクシーである。一目で政宗の趣味と魂胆が知れようものだ。なるほど、あの言葉はそういった下心故かと納得しても後の祭り。この現実からは逃れようもない。これも彼氏の意に応えるためと決意し、羞恥心を押し殺しては水着を着たのだった。

おそるおそる更衣室から出てみたが、もちろんちらりと視線はもらうものの、各々和気藹々としたカップルが多いためにさほど心配したこともなかった。注目されることを恐れた自分に恥ずかしいとすら思えるくらいで、事の元凶である政宗を恨む。
さて彼はどこへ陣取ったのかしらと心細げにビーチを歩くと、やたら若い女性の黄色い声が耳につく。ちらりと視線を向けると数人の女子大生と思わしきグループがきゃっきゃと騒いでいて、野次馬のつもりで何かと近づけば、なんと中心には政宗がいるではないか。これは所謂逆ナンというやつだろうか。
政宗は困ったような表情を浮かべているものの、どことなく嬉しそうに見えてしまう。おまけにその女子大生たちはどの子も負けず劣らず露出度が高く、顔もよし、スタイルもよしとくればはもうどうしたらよいのやら分からなかった。

!てめ、おせーぞ」

ようやくこちらに気がついた政宗が助かったとばかりに、群がりあわよくばボディタッチを狙う女性陣をかき分け、ずかずかと向かってくる。後ろからひそひそとこれみよがしに不満げな声を募らせる女性陣の敵意丸出しな視線を受けて、もはやは泣きそうな気持ちであった。

「よしよし、ちゃんと着たな。さすが俺の見立て、よく似合って…どうした?」
「知らないッ」
「おい。なに怒ってんだよ」

焦った政宗の声を置き去りにしてはもと来た道に回れ右をすると、すかさず女性たちが政宗を引き止める。は怒りを燃やして一瞥し、ずぼずぼと足が埋まるほど乱暴に歩き出す。
ほどなくして、波打ち際にぽつりと腰を下ろし冷静に鑑みてみると、自分の浅はかな行動にほとほと嫌気がさす。政宗はきちんと計画して、場所も取って、水着もプレゼントしてくれて(この際趣味には口を出さないでおく)、似合ってるとまで言ってくれたのに。つまらない嫉妬心で自棄を起こしてしまい、これからどうしようとは頭を悩ました。

「どうしたの、一人?」

よほど膝を抱えて寂しい人に見えたのだろうか。後ろから声をかけられてどきりとする。政宗かと思ったが、振り向いけば優しげな男の人がにこにこと立っていた。

「あ、いえ…連れが、」
!!」

言いかけたところで、響き渡るほど、もはや怒声に近い政宗の声がした。おそろしい形相に男の人は気圧されて、そそくさと去ってしまう。噛み付かんばかりにその後姿を睨んで、帰るぞと呟きの腕を掴んだ。
途方に暮れていたのが嘘のように、政宗が追いかけてくれたことに嬉しさがこみ上げる。

「何にやにやしてんだ」
「ううん、かっこよくて焼きもちやきの彼氏がいると大変だなって」
「そうかい。責任もって面倒みてくれよ?」
「言われなくても、離さないからね」
「ありがたくて涙が出るぜ」


(111218) ゆうぽんさんへ!

タイトルは運命・行動を共にするという諺みたいなもんです