「漸次立憲政体樹立の詔とか長すぎて覚えられるかー!!」
70分授業の日本史地獄に耐え、教室から出た開放感からかは咆哮した。
「言えてるぞ」
「え、うそ、ほんと。やだ私ったら天才」
「それより英単語を詰めろ、終わるまで帰れない」
「……かすがあ、おなか空いたからコンビニ行こう…。篭城戦にはファミチキが必要だよ」
「仕方の無いやつだ」
呆れながらもかすがは付き合いがいい。密かにこいつらレズなんじゃねーの、と周りから囁かれるほど塾では常に一緒の行動だった。二人でたらふく間食物を買い込んで、教室と教室の間に少しある勉強スペースを陣取る。ファミチキのいいにおいが充満して他の生徒が物欲しそうな目でこちらをちらちらと見ていたが、そ知らぬ顔では腹に収めた。
かすがもきれいな指先でサンドイッチをそれは上品に食べ、ターゲットを手にぶつぶつと英単語を繰り返している。おそらく覚えられていない単語にひとつひとつ付箋が貼っており、几帳面な性格が伺える。
「パズーは夢を追求する!」
「…pursueをどうやったらパズーと読むんだ」
「ちっちっち、こういうのは視覚と語呂で覚えるのだよ。あとはねー、プリンで訓練する」
「おいおい、それはまさかdisciplineのことじゃねえだろうな」
後ろから笑いを隠しきれていない男の声がした。
「げ、出たな伊達眼鏡」
「伊達政宗だ。…ったく、そんなんだからいつまで経っても中級クラスなんだよ」
「余計なお世話です」
ふいと視線を逸らした隙に、伊達は二人の間にあったポテトチップスを口に放り込んだ。抗議しようにも彼のおなかの中に収まったポテトチップスはもう戻ってこない。うなだれて政宗を睨むが、彼はそれすら愉快そうに笑った。
はこの伊達政宗と言う同い年の男が苦手であった。塾に入るまでは全く面識のない男で、なおかつクラスさえも違う。最初はかすがと同じ中学だったという佐助を介しての顔見知り程度だったのに…、近頃ではやたらとからかいに突っかかってくる。
「英単語テストの居残りか、百個くらい余裕だろ」
「そうですねー、頭の出来が悪い私と違って政宗くんは秀才ですからねー」
「当然だろ」
嫌味の通じないやつだよね、とかすがに愚痴を零す。が、我関せずといった様子でかすがは相変らずターゲットと睨めっこをしていた。
「お前も早く上級クラスに上がって来いよ、きっと楽しいぜ〜」
「政宗くんがね」
「つーわけで、、お前は慶應を目指せ」
「はあ!? 馬鹿じゃないの、マーチで精一杯なのに早慶とか馬鹿じゃないの」
「大丈夫だ、入り損ねたら嫁に貰ってやる」
「えっ」
あれ、いま、なんかさらっとすごいこと言われた気がする。思考が追いつけず固まっているを尻目に「伊達、次の授業始まるんじゃないか」とようやくかすがが助け舟を出した。名残惜しそうに政宗は後ろから去っていく。
「……遠まわしに落ちろって言われた?」
「、素直に受け取ってやれ」
(120208) 青子さんへ!
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