「天は二物を与えてしまった…、そう伊達先生に」
「その倒置法が癪に障る」

サクサクと滑らかにスコップが土を掘り出していく音が虚しく響いた。はじとりとした目で片倉小十郎を睨む。二人のいる場所は園芸委員顧問の小十郎が密かに築いている学内の庭園であった。ここまで足を運ぶ生徒は少なく、ちょっとした隠れ家のようで、はそれをいいことに通いつめている。なぜならば、悩みを話す相手は事欠かないからだ。

「だからさー、伊達先生がバレンタインデーにもってもてなのは自明の理なんだよねー」
「……教員が貰うのはご法度だ。伊達先生だって断っていただろう?」
「代わりにラブレターが箱詰めだったけど」
「てめえもやりゃあいいじゃねえか」
「でも!わたしはやっぱりチョコレートを受け取って欲しいの!!」

今日一日、鞄の底にあるチョコレート。伊達先生は甘いのが苦手と聞いていたからちょっぴりビターな仕様に、徹夜して作ったガトーショコラ。彼に食べて貰いたくて作ったのに、このまま渡すことが出来ずに終わるのはあまりに不憫と言うもの。
が深くため息をつくと、見かねた小十郎が少し乱暴に頭を撫でた。

「ま、頑張ってみることだ」
「……?」

やけに愉快そうな声色で小十郎は言い放って、てぬぐい引っさげ校舎へ戻っていく。呆然としてその後姿を見送ると、不意に後ろから手が伸びて、ぐいと肩をつかんだ。

「なーに惚けてやがる」
「だ、伊達先生」

驚いて見上げると、帰るところなのかきっちりコートを着込んだ政宗が立っていた。

「また小十郎と逢引か?妬けるな」
「かかからかわないでください!!片倉先生とは別にそんなんじゃ」
「そうか、随分親しげに見えたが…」
「覗き見は趣味が悪いです」

がそっぽを向いて拗ねたふりをすると、政宗はお構いなしに開いたままの鞄に目を留める。政宗は何の気なしにラッピングされた包みを見つけた。いや、実のところあると確信しての行動だったかもしれない。
自分の鞄を漁り始めたと気づいて動揺した頃にはもう遅く、彼の手中にプレゼントは収まっていた。思っていた形とは裏腹に。

「ほう、一丁前に手作りチョコを作ってきたわけか」
「か、返し…」
「いいのか?伊達先生へって書いてあるけどなァ」
「!!」

一瞬にしての顔が真っ赤に染まる。その様子を満足げに政宗は眺めて、プレゼントを自身の鞄にしまいこんだ。

「ま、特別に俺が没収しといてやる。よかったな、他の先生に見つからなくて」
「えっ…あ、あの……」
「それと俺は今から帰るんだが」
「(全然人の話聞いてくれない)」
「乗ってくか?ついでに進路相談もしてやるぜ」
「乗ります!乗らせていただきます!」

ポケットから車のキーをこれみよがしに突きつける。そうまで言われたら期待しないわけにもいかず、飛びついた。政宗はあやす様に、先ほど小十郎にされたのと同じくの頭を優しく撫でた。

「Ha,当然!なんてたって俺の個人レッスンだ、寝かせてやらねーから覚悟しとけ」


(120218) りんさんへ