「本当に申し訳ありません!!」
机からガンッと痛々しい音がした。実際に「いてっ」と小さな悲鳴が隣の男の子から漏れる。わたしはそれに苦笑してどう返事をしていいやら迷った。
まだ保護者である小十郎さんに頭を押さえつけられて呻いているのは政宗くん。わたしの担当する生徒だ。所謂ガキ大将的存在の政宗くんは、昨日に引き続き今日は隣のクラスの秀吉くんに喧嘩をふっかけた。双方痛い見分けで勝負は終わり、お互い引っかき傷やらで保健室へ。そして親へ連絡が回ったというわけだ。
こうして小十郎さんと政宗くんを挟んで会話するのは何回目だろう。苦労が絶えない人だなあ、とこっちが同情してしまうくらいだ。
「いえ、わたしがきちんと目を配っていなかったのもあります」
「先生はわるくねーよ!」
がばっと政宗くんは顔をあげて必死な表情で訴える。
「あいつがわりーんだ。あのデカブツが先生のこと好きだっていうから、」
あら、おや、と両者の間でお互い驚きの顔を見せる。いつも喧嘩の理由は言い訳みたいで嫌だと政宗くんは口を割らないのに今日はどうしたことか、と。そしてもしや政宗くんは自分のことを好いてくれているのだろうか。
「政宗くん…」
はなんともいえない温かい目で政宗を見る。一方小十郎はハラハラした面持ちで政宗を見た。それをまったく気にせず政宗はこの場の空気を一変させてしまう言葉を吐いてしまう。
「だって先生は小十郎と結婚して俺のmotherになる約束だろ!」
「えっ!?」
「…っ、ままま政宗様!」
それは言わん約束でしょう、といつもしかめっ面の小十郎にしては珍しく慌てふためいた。もでまさかそのようなことを言われるとは思ってもみなかったので、どう返事をしたらいいか困ってしまう。
ちらりと小十郎さんを見ると、いつもと打って変わり心底恥ずかしそうに視線を逸らしていた。意外にも分かりやすい態度を取られて思わず笑ってしまう。ああ、やっぱりわたしは小十郎さんのこと好きだなあ。
「ま、政宗くんがもう少し大きくなったらね」
「!!」
「えー、俺待てねえよ」
「それまでその話は内緒。いい?」
「ちえっ」
「先生」
それはつまり自身と一緒になってくれると約束してくれたも同じだ。小十郎は期待のこもったまなざしでみると、ははにかみながら「宜しくお願いしますね」と頷いたのだった。
(100725)
多分政宗くん小学生くらい。政宗の保護者小十郎と新人の若い先生の恋でした。