※少しだけ性描写あります
わたしは政宗さまが好きだった。稽古をするときの凛々しいお姿も、政務と睨めっこをなさる真面目なお顔も、南蛮語を流暢に操る美しい唇も、ぜんぶぜんぶ好き。とりわけあの人を惹きつける性格にわたしは虜となった。
ただ片倉さまがかつて評したように政宗さまに女は似合わなかった。というよりは、興味がない、寄せ付けない。おかげで正室を娶る話はなかったが、わたしが彼に近づくことも容易ではなかった。
そしてなによりも最も大きな障害は彼の右目だ。その役目を存分に果たし、右目は常に監視を怠らない。
かれこれもう十日は政宗さまの姿を見ることが出来ないでいた。今日こそは、挨拶だけでもしたい。そう意気込むがしがない女中のわたしは仕事の忙しさに追われあっという間に夜の帳が降りてきた。
ああ、今日もあなたさまにお会いできなかったわ…落胆に暮れる。
「Oops!」
「きゃっ…」
それは疲れた体を引きずって曲がりくねった廊下の角を曲がったときだ。月夜とはいえ暗くてお互いに気づかなかったのだろう、誰かとぶつかった。さっと逞しい腕が腰にまわる。
「I'm sorry.大丈夫か」
「も、申し訳ありません」
「いやこっちの不注意だった。考え事をしながら歩くもんじゃねえな」
もう一度政宗さまは、悪かったと謝罪して去っていった。まるで夢のようだと、わたしは胸が早鐘のように打つのを抑えきれなかった。こんなに会話出来たのは初めてだ!緩む頬を自覚しながらもわたしはそのまま部屋に戻ろうと角を再び曲がった、そのときだった。
片倉さまがそこに仁王立ちしている。あっと驚いて足が竦んだ。責めるようにこちらを見ていて怖くなる。
あの方は政宗さまの前ではそりゃあ家臣の鑑と言うべき人物だろう。だが主君がいないところでは本来の彼が垣間見えた。敬語などどこへいってしまったのかというほど部下には口調は荒いし、所作は乱暴だ。
このまま知らん顔で踵を返そうと思ったが見越したのか片倉さまはわたしに近づき、痛いほど腕を掴む。
「てめえ、また性懲りもなく政宗さまに近づこうとしただろう」
「め、滅相もございませぬ。政宗さまにお会いしたのは偶然で…」
「熱っぽい視線を送りながらよく言えるな、その薄汚い口を閉じてやろうか」
「なに、を…っ!!」
彼の動きは剣の達人だけあって素早かった。かさついた唇が押し当てられて頭が真っ白になる。口内を犯そうとする侵入者に抵抗しようとするがそれもすぐ絡めとられてしまった。
「…、んん!」
止めて、離して、何度脳内でその言葉が繰り返されたか。うっすらと涙混じりの瞼を開けると、片倉さまはきつく苦しむように目を閉じていた。なぜあなたがそんな顔をするの?苦しいのはわたしなのに。
するりと腰紐が解かれる音がした。部屋に押しやられて、乱暴に彼は衣服を脱がす。抵抗らしい抵抗も出来ないままわたしはその荒々しいほどの攻めに耐えねばならなかった。どうしてわたしに彼を拒む力があろう?獣のように貪るさまを背中に感じながらわたしはひたすらにそれが終わるのを待った。
きっと、きっともう政宗さまには会うことが出来ないに違いないわ。どくどくと腹に注がれるのを感じながらわたしは涙した。
「おまえを娶る」
それは死刑宣告にも等しい、わたしにとって最も残酷な言葉。わたしの好きは彼の愛してるに屈服せざるえなかった。
(100131)
以前書いた忍のやつに少し似てますけど。わたしはどうも片倉が猫かぶっているその化けの皮を剥がしたくてたまらないらしい。