※暴力的表現があります、閲覧にはご注意ください


長期任務を経て主様へご報告を、と廊下を歩いていたところ何やら香ばしい匂いが漂っていた。すきっ腹にその匂いは応える。ぐうと大きな音を立てて食べたいと主張するものだからあたしは誘惑に負けてこっそり台所を覗いた。

「ま、まままさむね様!」
「おう…ちょうどいい、試作品だ。食べてみるか?」

そこにいたのは主様の主様である尊き伊達政宗様であった。差し出された美味しそうな団子に思わず涎が垂れそうになるが、主様の怒った顔が目に浮かび首を振る。こないだも政宗様と会話しただけで散々折檻され、挙句に任務を増やされたのだ。同じ轍は踏むまい。

「いけません、あ、あたしのような下賤な身分の者にそのような…」
「俺の作った飯が食えないって言うのか」

そう言われると返す言葉が見つからない。何せ先ほども言ったが主様がお仕えする方なのだ。筆頭の命令は絶対も絶対、逆らえるはずもない。というのを口実にあたしは本能に従って団子を口にした。政宗様の作るお料理はそれはそれは美味しい。その道の達人にすら引けを取らないほどだ。

「どうだ、美味いか?」
「はい!」
「そうか…そいつはよかったなァ」

その低い声に心臓が飛び出しそうになった。政宗様が気さくにお前も食べるかと、後ろに立たれるお方に尋ねなさる。おそるおそる振り返ればやはり主様がいらっしゃった。にっこりとほほ笑んでいるが明らかに作り笑顔である。こちらへ一瞬投げかけた視線がこの後のことをすべてものがたっている。


どん、と暗くて狭い部屋で壁に背中を押しつけられた。その上襟首を掴まれて、身長差ゆえにあたしの体は浮き、息をするのが苦しい。だけど主様のお顔の方がもっと怖い。身を刺すような視線に体は強張った。

「報告も済まさねぇで政宗様のお世話になるとは…いい身分だな」
「も、申し訳ありません。ほ、本当に出来ごころでつい」
「てめえは俺が前に言ったことを忘れたのか?学習能力がないのはどこぞの猿と同じだ、馬鹿野郎が」

ごめんなさいごめんなさいと謝るが主様の怒りは収まらない。むしろあたしが泣き叫ぶのを喜んでいる節がある。ああ、なんて性質の悪い。

「聞き分けのないてめえには仕置きが必要みてぇだな」
「ひっ」

今やバチバチと目に見えるほどに主様は体に電気を纏っていらっしゃった。空気ごしにそれが頬を撫でるのが痛い。忍は日蔭者、感情を捨てろ、泣くんじゃねぇ、立場を弁えろ、次々と教え込むように叩かれる。
だけど一番それを理解して苦しんでいるのは主様なのではないか、とふと思ったのだった。


(090929)

小十郎はほら、軍師なら裏で工作をしていそうだから…ヒロインに自分を重ねている感じです。若いころは苦労したんじゃないだろうか。歪んだ愛とあくまでも主張してみる。