朝告げられた言葉にわたしは動揺し、絶句した。戸惑いながらも真相を確かめに片倉さまの姿を探す。彼は自室で書を呼んでいるところだった。わたしに気がつくと、待っていたと言わんばかりの顔で向かいに座るよう促す。
「…片倉様、ほ、本当なのですか?」
「ああ。悪いがお前は明日から来なくていい」
鈍器で頭を殴られた感覚に陥る。顔色一つ変えずに彼は冷酷にもそう述べた。分からない、粗相をした覚えはない、女中の仕事も真面目に取り組んでいる。それなのにどうして。
「分からないって顔してるな」
「当たり前です!落ち度があったのならおっしゃってください。ですからお暇だけは…」
「俺と政宗様で決めたことだ」
きっぱりと言い捨てられて、言葉に詰まった。政宗様まで関与していると、その圧力で反論も出てこなくなる。それでもあんまりだ。片倉様だってよく挨拶をしてくれたり、励ましのお言葉までくださったのに、やはり納得がでいなかった。けれども長居をして困らせるわけにもいくまい。
「分かりました…」
涙をこらえて、やっとそれだけ言えた。ここを出る準備をすぐに済まさなければいけない。そのまま頭を下げて部屋から退出しようとするときだった。
「お前の就職先は既に決めてある」
「…え?」
振り向くと優しく微笑む片倉様はわたしの手を取った。
「俺のところに永久就職だ」
「か、片倉様…!」
「今日からお前も片倉になるんだ、小十郎でいい」
驚かせて悪かったなと呟いて片倉様、いえ小十郎様はわたしの頭をそっと撫でてくれる。とうとう涙腺は崩壊した。
(090812)