「おはよう、お寝坊さん」
朝起きると優雅にコーヒーをすする小十郎さんが既にいた。しまった、今日こそは彼より早く起きるつもりだったのにとは項垂れる。夫に負けるとは不覚だ。しかし気を取り直して、彼のお弁当を作るべく台所に立った。
その間にも小十郎さんはゆったりと新聞を読み、歯も磨き、準備を整える。何でも今日は大事な会議があるらしい。いつもより早めに出かけると事前に言われていたので目覚ましを早めにかけたのに…再び思い出してがっかりする。そうなることを分かって小十郎さんは楽しんでいる節があるのでますます性質が悪い。
「それじゃあ行ってくる」
「あ、はい」
慌てて小十郎さんのお見送りに玄関へ立ち、行ってらっしゃいと鞄を渡す。襟を直して颯爽と出ていく小十郎さんにうっとりしながらハッと思いだした。お弁当を入れることを失念していた。間に合うかしら、と不安になりながらお弁当取り玄関を出るとそこには小十郎さんが立っていた。
「小十郎さん…途中で気がついたの?」
「ああ、大事なことを忘れていた」
そういうと、そっと唇が頬に触れた。え、と混乱している間にお弁当は彼の手に収まっている。つまりは所謂行ってらっしゃいのキスということで、まさかそんなことで戻ってきたのかと考えたら自然と顔が熱くなっていた。
(090721)