「お帰りなさい!」

待ちかねていたようには、鍵が開いた音を聞きつけて玄関にひょいと顔を出した。政宗は彼女の笑顔につられて笑ったが、近づいてきた格好に顔を顰める。いくら室内が暖房で暖かいとはいえ、真冬にホットパンツとキャミソール姿ではどこか寒々しい。自分の着ていたダッフルコートを着せてやると、は大きいねと袖で口を隠して優しく微笑んだ。今度こそ政宗はよしと頷いて、無防備な額に軽くキスをしてやる。

「ただいま」
「うん」

くたくたに疲れているというのに、嬉しそうには政宗の腕を掴んでぐいぐいと奥へ引っ張っていった。リビングからいい匂いがする。食卓にはが用意したと思われる料理が並んでいた。

「これお前が全部作ったのか」
「日ごろの感謝を込めまして。ね、食べて食べて」
「ああ」

が椅子を引いたので、政宗はありがたくその席に座った。用意された料理は一人分、の分は無い。彼女は隣の席について、政宗が食べる様をにこにこと眺めていた。政宗が美味しいと言えばはもっとにっこりと笑う。
実のところ、一見理想的な夫婦に見えるだろう二人の関係は、否、主人とペットというとんでもない主従関係で結ばれていた。ああ、しかしはペットというには語弊のあるほどかわいらしい生き物とかけ離れていた。

「ねえ政宗」
「ん?」
「……わたしも食べたい、なあ」

ちらりとのリップで潤った唇から舌が動く。察した政宗は仕方ねえなあ、と腕を広げた。来いという意味だろう。許しを得るが早いか、は政宗の胸に飛びついた。ものすごい音を立てて二人はフローリングの床に落ちる。容赦の無い飛び込みに政宗は苦痛に顔を歪めたが、は据え膳を食わされたために一切気にする余裕はなかった。

がぶり

文字通り、彼女は政宗を食べた。正しくは、政宗の首筋に噛み付き、飲むようにして彼の温かい血潮をいただいた。そう、彼女は吸血鬼。最初こそ政宗は驚いたが、この吸血行動は特に貧血を起こすかもしれないという点を除けばさしたる害はなかった。それよりも従順で、かわいくてたまらないこの吸血鬼を飼うことに今では何ら政宗が疑問を感じることは無い。
この吸血、最初こそ少し傷みは伴うものの慣れてくればどこか心地よく思うことさえあった。セックスと同じように人は快感を伴わなければ欲求が満たされる条件が厳しくなるのと同じように、吸血行動に不快感はない。ちろちろと止まってきた赤い水をは最後に舐めて、ようやく一息ついたようにぷはっと顔を離した。

「…美味しかったか?」
「うん。政宗の血、だいすき」
「俺のことは」
「もっとだいすき」
「よし」

いい子だ、と撫でてやると気持ちよさそうに瞳を閉じる。そうして政宗は不意に今度は深く唇にキスをしてやった。驚いたが距離をとろうとするが、そうはさせじと後頭部を抑え、角度をつけてやる。じわりと自身の血の味が口内に広がった。

「それじゃあ俺ももう一回頂くとするか」
「もうお腹いっぱいでしょ?」
「残念、これは別腹だぜ」

腰に手を回すと、くすぐったそうにが身じろぎする。まだ夜は始まったばかりだ。


(120119) そるたんへ!

お誕生日おめでとうございます