「敵の数、およそ三千。うち騎馬が千、竜騎兵が五百」
「先鋒が街道に差し掛かりました」
「工作隊が橋渡しに取り掛かった模様、いかが致しますか」
苦々しげと、矢継ぎ早に忍からもたらされる戦況を聞く。ここ上田城へ攻める際に要所となるこの街道を抜けようとする軍団が忽然と現れた。おかげで兵達はいそぎ鎧を身に包み、戦支度に手間取る始末。
それもこれも皆不敵に笑う、この目の前の男のせい故だ。
「よお、邪魔するぜ」
「いけしゃあしゃあと…」
脇に控えていた佐助が驚き振り返る。真田忍隊隊長にしてはうかつだったが、奥州筆頭を前にしては責めてやれぬ。この男、自軍を後にして単騎で駆けて来たようだった。後ろには追いつかんとする彼の右目、片倉小十郎の姿も見て取れる。
さすがは独眼竜、彼の騎馬の腕並みは敵ながらも天晴れと評したくなるほどのものだ。しかしそれはそれ、これはこれ。何としても伊達軍をここで食い止めねば、上田城は大混乱に陥る。
「幸村様への手土産に、その首置いていかれませ」
「Ha-ha! クセになるなよ?」
すばやく居合いで鞘から太刀を抜き取り、バサラを身に宿すも伊達には届かず。彼は悠々と宙へ技を交わし、何事か南蛮語を呟き刀を振り下ろしてくる。あやういところでそれを交わすと、土煙がもうもうと舞った。まばたきにも近いほど一瞬目を瞑っただけで、彼の一撃が容赦なく繰り出される。これも寸前で避けたものの、剣圧が衣装を焦がした。お気に入りの戦衣装だったのに…、と気落ちする間もなく鋭い彼の攻撃が続く。
しかし拮抗した斬り合いにお互い飽いてくる。
「随分と余裕ね、刀一本でわたしを往なせるとでも?」
「…上等じゃねえか。そこまで請われちゃ仕方ねえ」
挑発に乗った独眼竜は、とうとう六爪を抜いた。空気をも震わせる彼の雷のバサラが緊張感をより高めて、気持ちがよい。ほとほと自分の戦闘狂には参るが、それにかけては彼も負けていない。
「ようく狙えよ、俺の心臓はここだぜ」
「言われずとも一思いに突いてあげるわ」
「いいねぇ…アンタの目。Come on!」
ここまで来ると、もはや傷ひとつに構っていられないほどに戦いへ身を投じる。それこそお互いの息の音を止めるまで止められないというほどに。彼と戦うのはまだ数度目にも関わらず、このたまらない命のやり取りがわたしは好きだった。きっと彼の好敵手幸村様には劣るけれども、少しでも彼にわたしを映してもらいたい。わたしの戦い様を胸に刻みたい。歪んだ愛情がわたしを駆り立てる。
「あなたを食らうのはわたしよ、独眼竜」
「さあて、剛毅な姫さんもいたものだ。だがそんなkittyを手なずけるのも悪くないな?」
「出来るものならやってみなさい、よ!」
トドメとばかりに大技を放つが、見事に彼の技に相殺された。そればかりか彼は大きく距離をとって再び刀をひとつに持ち直し、竜の如き雷をまっすぐこちらへ放った。これは堪えられずに態勢を崩したところで、刀の切っ先がひたりと首へ添えられた。
「これで終わりじゃねえよな」
悔しいほど見ほれる竜の姿に、わたしは再び刀に力を籠める。彼もまたわたしとの戦を楽しんでいることに心底喜びを感じた。きっとわたしたちはこうしてお互いに傷つけることでしか愛を伝えられないのだろうけれど、それが幸せなのだから救いようがない。
日が傾き、精も魂も尽き果てるまで、それは終わらない。だけど、もしもその終止符が打たれる日が来たならば、そのときは慎ましくあなたに従ってみようか。
ねえ、独眼竜?
(111213) 葉月ちゃんへ
お誕生日おめでとう!!
「右目の旦那…最近、あの人がここに攻める理由ってどう見ても…」
「言うな。頭が痛い」
むしろ戦う目的が幸村よりもヒロインちゃんってことに周りは気づきながらも、はいはいと付き合う野郎供の心意気に感謝。