朝起きて携帯電話を開けば、それはそれは零時きっかり誕生日おめでとうメールがたくさん来ていた。しかし肝心の彼からのものは見当たらず。がっくりとうな垂れる。
「えー、それって彼氏なのにひどくない?」
「いくら遠恋とはいえさあ」
友達に打ち明けてみればみな一様にそう言ってくれた。まったくだ。これだけ離れていると彼もわたしの記念すべき日を忘れてしまうのだろうか?むっと頬を膨らませて無言の携帯電話を眺める。
結局学校が終わって帰宅しても彼からのメールも電話もなかった。あーあ、なんて薄情な男なのだろう。態とらしく明日に誕生日だったと打ち明けてみようか。そうすればさすがのやつも慌てるだろう。
いよいよ明日が来るという数分前にしてコールが鳴り響いた。
「え?」
慌てて枕の下に埋もれた携帯電話を手に取る。画面にははっきり「伊達政宗」とあった。
「もしもし」
「おー」
「…間違い電話なら切るよ」「そう怒るな。お前の誕生日だったら忘れてねえぞ」
「うそ、こんなギリギリの時間帯になって」
「だからだよ」
「?」
昔から掴みどころのない男だと思ってはいたが、とうとう意思疎通まで難しくなってきたか。眉根を顰めて彼の言葉を待つ。
「どうせ最初に祝うやつは多いんだ。だったら取りを務めるのは彼氏である俺の役目だろうが」
「い、意味分かんない」
「だからなァ」
ガチャリとドアノブが音を立てた。あっ、と息を呑む。そこにはいるはずのない彼が携帯電話を持って不敵に笑んでいた。
「おまえの誕生日を最後に祝って最高のもんにしてやるのは俺だっつってんだ。You see?」
ぎゅうと真正面から抱きつかれる。ひんやりとした体、上がった息、彼がまさにいま駆けつけてきたばかりだということを物語っていた。
「誕生日、おめでとう」
(101230)