「似合ってねえ」
ぶっきらぼうに放たれた言葉に、わたしは唖然とした。かわいらしいワンピースを見かけたので試着してみたらこれだ。当然賞賛の声がかかると思っていただけにショックは大きい。しかしわたしよりも数段ファッションセンスが上の政宗に言われてはきっと似合っていないのだろう。
「そ、そっか」
再びカーテンを引く。下手に見え透いた嘘で似合っていると言われるよりも、きっぱりその場で教えてくれるところが政宗の優しさなのだ。頭で分かっていてもどうしようもなく辛かった。
脱いだワンピースを鏡越しにしげしげと眺める。やっぱりかわいい。でも似合わないなら仕方ない。
「ごめんね。待たせちゃって」
「Never mind.それよりクリスマスの予定はちゃんと空けてあるだろうな?」
「うん!もちろんだよ」
「ならいい」
政宗の満足そうな顔を見て、わたしはホッと胸をなでおろした。政宗の何ものにも媚びない態度はときどきわたしの心をどうにも不安にする。それと同時に安心するのも確かだった。
きらきらと光るイルミネーションを見上げる。政宗の住むマンションは小さなサンタクロースとトナカイが走っていた。買ってきたチキンを手に、きれいだねと政宗に言う。
「そうか?電気代の無駄だろ…」
「ええっ、夢がない」
「さっさと寒いから中入るぞ」
マフラーに顔を埋める政宗の後を慌てて追いかける。隣に並ぶわたしにさりげなく手を出す政宗。こういうところが好きなんだろうなあ。寒いという政宗の暖かい手に包まれて、ようやく家にお邪魔した。
テーブルクロスの上に政宗手製のクリスマスならでは、豪華な夕食が次々と置かれる。お互いにワインを持ち、乾杯!と笑いあった。少し大人っぽい二人きりのクリスマスだ。
「はい、政宗」
食べ終わったテーブルの上に、赤と緑で包まれたプレゼントを置く。
「俺にか?」
「他に誰がいるのよ」
「…Thank you.」
さっそく政宗はためらいなくビリビリと包装紙を破いた。そういうところ、さすがは帰国子女だわと感心してしまう。
もふもふと温かそうな耳あてを見て、政宗は嬉しそうに微笑む。実用的なものの方が政宗は喜ぶのだ。
今度は俺もと政宗が同じくクリスマスカラーのプレゼントを置いた。この大きさではアクセサリーといった類ではない。てっきりそういうものかと予想していただけに、何かしら?と首を傾げる。
「開けていい?」
もちろんだと政宗は頷いた。リボンを解いて中に手を入れてみる。取り出したものは先日似合わないと断言されたワンピースだった。びっくりして政宗をまじまじと見てしまう。
「こ、これ…」
「似合わねえっていうのは嘘だ。すっげえかわいかった。だからちょっと驚かしてプレゼントしてやろうと思ってな」
こないだは嘘とはいえ悪かったと政宗は照れくさそうに謝った。そういう意図があったにも関わらず、一瞬でも政宗の愛情を疑ったわたしの方こそ心から謝りたいのに。
「ありがとう」
わたしにはあまりにも過ぎた素敵な彼氏をもったものだ。
歯に衣着せねども
時には嘘も方便とす
(101224)