「ちょ、ちょっとどういうことなのよ」

思わず友達ににじり寄る。わたしは内輪の食事会に誘われたはずだった。ところが来てみれば既にテーブルの向かい側には男性陣が着席しているではないか。これが合コンだと気づかないはずがない。

「だってそう言ったらアンタ来ないじゃない」
「あ、当たり前でしょ!?」

こんなところを政宗に知られたらどうすればいいんだろう。気恥ずかしいので彼女たちに内緒にしていたことが仇となった。数合わせと言われたが、つまりは人数的にわたしは誰かの相手をしなければならないのだろう。
それがもしも、万が一、彼氏である政宗の耳に入ったらどうなる。とんでもない要求をされることが目に見えている。

「帰る」
「だめまっておねがい!せっかくあの有名私立の婆娑羅から来てもらっているのに」
「知らない、ともかくわたしは帰る」
「ああ!もう〜−…分かったわ、一番かっこいい人を譲るから、ね?」

これが最大の譲歩とでもいうように彼女は拝む。
一番かっこいい?政宗よりかっこいい男がいるわけもない。その怪訝なわたしの表情を半信半疑と捉えたのか、彼女は「あの人よ、あの人」と座席を指差す。ちらりと横目で見てわたしはその人とばっちり目が合ってしまった。
その途端心臓が止まる。一目散で無駄だと知りつつも柱の陰に隠れた。呼吸の仕方を忘れたように乱れる。

「おい」

聞きなれた低い声が背後からした。今度こそ息が出来ない。

「ほら、伊達くんよ、伊達くん。ごめんなさいね、この子あんまりにも伊達くんがかっこいいものだから照れちゃって」

お節介な仲介役を務める友達のフォローを心底わたしは呪った。

(う、うかつだったァァアアア!!婆娑羅大学の時点で帰るべきだった!)

数分前のわたしをも呪う。まさかご本人がその場にいるとは思いもよらなかった。浮気現場を差し押さえられた気分はこのようなものなのか。い、いやでもわたしの場合無理矢理連れてこられたのだ。政宗だってここにる時点で同罪である。きちんと説明すればむしろ軍配はわたしに上がるのでは…?はたとその事実に気づき、わたしは急に後ろめたい気持ちが吹き飛んだ。
そう、そうよ。政宗だって… 勇気を出して彼を振り返った瞬間に後悔をした。そこにはおそろしいくらい凶悪な笑顔を浮かべた政宗が立っている。心なしか口端が怒りで引きつっているのが見えた。勝てない、あるのは絶望だけ。

「よォ、ちょっくら二人で話し合う必要がありそうだな?」
「…ソウデスネ」

ポンと肩に置かれた手がみしみしとわたしの骨を刺激する。

「わりぃが、こいつ持ち帰るわ」
「ど、どうぞどうぞ!」

政宗は誤解が残る発言を友達に投下して、逃げないようにがっしりとわたしの腕を掴んだ。友達へ必死に助けてのサインを目で訴えても、彼女の瞳に宿したロマンスの前では無駄だった。要らぬ気をきかせてわたしたちを送り出す。
店の隣にある駐車場にあるアルファロメオに乗り込んだ。政宗は運転席から身を乗り出して助手席で怯えるわたしの耳元まで顔を寄せる。

「さァて…どう料理されてえ?」

地獄へと車はゆっくり発進したのだった。


(101207)