風が身を切るように寒くて、かじかむ手を温めようと吐いた息も白かった。さすがに冬へ海に繰り出すほど馬鹿じゃないけど、恋しがって元親はときどき港に泊めたままの船に乗り込む。いつもは城に置いてけぼりのわたしもその時だけは手を引かれて、甲板に二人して並んだ。

「おら、もっとこっち寄れ」
「……うん」

分厚くて二人をすっぽり包んでくれる羽織と温石で暖を取り、頭上に広がる天を頂く。船乗りを導く北極星が一際美しく輝いて、でも日本では見ることの叶わなかった星たちがもっともっとたくさんあって。

「オリオン座みっけ」
「おりおん?」
「うん、その近くにおうし座があってね、あ、すごい!スバルが見える!!」
「統ばるか、ああ、あの星が密集したやつだろ?」
「元親も知ってるんだ」
「そりゃ、星はすばるって言うじゃねえか」
「ふーん?古来にも星座はあったんだね」
「お前の南蛮語じゃわからねえが、俺たちは唐土の星座を借りさせてもらってるからな。おりおんつーのは源氏星と平家星があるところだぜ」
「なるほど、言われてみれば赤と白…!」

こうして二人っきりで話すと、違ったところ、同じところが見えて大好きだった。訳がわからないままに過去へ飛ばされたときは我が身の運命を嘆いたが、元親に拾ってもらってから一年が過ぎ、今では幸せだと思う時間が多い。
そうして元親のぬくもりにまどろみながら惚けて星空を眺めていると、そっと元親が後ろから包むように抱きしめた。誰も見ていないとはいえ、少々気恥ずかしい気持ちでわずかに身じろぎすると、いよいよ腕の力が強くなる。

「……元親?」

戯れにしては様子のおかしい彼を訝しげに読んでみると、思ったより切ない表情がこちらを見た。

「あんまり星を見るもんだからよ、天に吸い込まれちまうんじゃねえかって…」
「え?」
「アンタはかぐや姫みてえに俺のところへ来ただろ。いつか月に帰ってもおかしくねえ」
「……あのね、わたしが元親を残して行く薄情な女だと思う?」

ひとつため息をついて、いつになく心細げな元親の髪を優しく撫でてやる。こんな優しい男を置いていけるはずがないのに、馬鹿な人だわと笑みを漏らす。現代では平々凡々な生活を送っていた女子ひとりを捕まえて、かぐや姫に例えるなんて、ほんと、ばかな人。

「ねえ、元親。月が綺麗ね」


(111228) ひゆこへ
お誕生日おめでとうございました!

*星はすばる 清少納言(枕草子)