ついに捕まえた。
目の前で神妙に正座をする、半裸の男をわたしは睨む。わたしたちがいる場所はいつも寝起きするダブルベッドの上だ。同居するときに、二人で寝れるように奮発して買ったものである。よりにもよってここで、この男は女を連れ込み、まあご想像はつくであろう。
以前から浮気している素振りを感じ取り、問い詰めていたがついに現行犯で彼を問い詰めることに成功した。せめてもの下着を纏う男は、青ざめた表情で自身の膝に置かれている拳をじっと見ている。あれだけ否定しておいてばつが悪いのだろう。
「何か言いたいことは」
「…わりぃ」
「まあ、悪い言葉」
「たいへん申し訳ございませんでした」
深々と土下座をする男は、上半身裸である故にどうもきまりがつかなかった。わたしはそれを見てため息をつく。それに反応してびくっと震える広い背中。
さきほどの女は誰だったのだろう。今日限りかもしれない、以前からなのかもしれない。例え一人にしろ何人にしろ、浮気をしていた事実は免れなかった。付き合う前から女癖の悪い評判はあったが、さすがに同居に踏み切った仲なのでと高をくくっていたのだが。
「わたしの、どこに不満があったの?」
浮気されてもちろん怒りの気持ちがすぐに沸いた。けれど同時に悲しみが押し寄せた。彼はわたしだけで満足できなかったという証拠ではないか。
「別に不満なんてよ…」
「じゃあなんで浮気したの」
「……魔が、差したというか」
「ほう」
魔が差した。復唱すればおそるおそるといったように、元親はわずかに顔を上げてこちらを伺った。それに対してわたしは怒りの感情を抑えてにこりと笑ってやる。ますます元親の顔色は悪くなるばかりだ。
こんな男のためになぜわたしが悲しまねばならんのだ。今やすっかり脳内は怒りに占められていた。わたしは不意に立ち上がり、元親をそのまま残してリビングへ歩き出す。それに慌てたように元親は追いかけてきた。おそらくわたしが出て行くと思ったからであろう。
「な、なあ、本当に悪かった!この通りだ」
後ろで両手を合わし、必死になって謝罪の言葉を繰り返す。何を馬鹿な。シーツを汚した罪、自身で購ってもらおうではないか。
電話の脇に置いてある筆記用具類からはさみを取り出した。そして近くにあるテーブルへ、ダンッと突き刺す。
「脱げ」
「……へ?」
「いいからさっさと脱げ」
「お、おい」
力任せにはさみをテーブルへねじりこむ様にぐりぐりと深くなおも突き刺した。彼女の尋常ではない様子に悪い予感がしたのか、元親は一歩後ずさる。それに比例してわたしもはさみを元親へ向けてにじり寄る。
「二度と浮気なんぞできないよう、去勢してやんよ」
(100903) by.豊子
つっきへ捧げる「去勢」を題材にした相互夢です。これからもよろしくね、浮気はめっ!よ(お前が言うか)