頭がくらくら、とする。
それは教科書を抱えて教室移動をしているときだった。前にいる友達の雑談にも耳を傾けられず、頭を押さえる。いけない…眩暈がする。それに気づいてくれた友達は心配げに声をかけてくれた。
「大丈夫?保健室一緒に行こうか?」
「う、ううん、一人で行ける。先生にも言っておいて」
重い足取りで階段を降りた。眩暈の上に視界がちかちかして、立っているのもつらい。壁伝いにようやくお目当ての保健室へたどり着いて、先生に診てもらう。
「貧血ですね、このくらいの女の子はかかりやすいのですよ」
「はあ、…貧血ですか」
「一時間寝ていれば治ると思いますから、空いているベッドを使いなさい」
言われたとおりにベッドへのそのそと上がると、純白のカーテンが閉められる。窓側のベッドは既に誰かが使っているようだった。風が気持ちよさそうで羨ましいなぁ、と思っていたら隣のカーテンが遠慮がちに動いた。なんだろう、視線をずらしてみるとカーテンの隙間から覗く目にぎょっとする。思わず先生に苦情を言おうかと思ったら、次の瞬間男子生徒がこちらのスペースへ入ってきた。
「へえ、珍しいなァ」
ポケットに手を突っ込んで、いやらしい笑みで顔を近づけたのは元親だった。これでもわたしの彼氏なのだが、先生の悩みの種であり、保健室の常習犯でもあった。
「またさぼり?」
「おうよ、おまえは…顔色が悪そうだがどうした?」
「貧血だって」
それを聞くと元親の武骨な手がわたしの額をなぞる。熱はないよ、と力なく笑うと心配そうな目とかちあった。ギシ、と元親の重みでベッドが悲鳴を上げる。
「ちょ、ちょっと…!」
「いいじゃねえか、何もしねえよ」
豪快に掛け布団をめくって元親は狭いシングルベッドに入り込んでくる。押し返してみたが病も手伝ってかまったくびくともしない。逆にその手をとられて、ぎゅうと押しつぶさんばかりに抱きしめられる。
「…もう、大きな子供みたい」
「たまにはおまえが甘えてみろよ」
くすぐったいほど優しく額にキスされて嬉しいやら恥ずかしいやら。そっと擦り寄ってみれば、元親は驚いた顔をした。が、すぐ調子に乗って首元に顔をうずめる。ああ、わたしが病人だっていうのにまったく。そう言いつつもしばらくは恋人らしくたまには甘えてみようかと思った。
(091221)
保健室の先生は明智さんです、きっとこの後ちくりと嫌みを言われるに違いない。元親って大きな子供みたいにぎゅうと抱きつき癖がありそう。