ねえ、もしも、もしもの話よ?わたしと貴方が恋人同士なの。なかなか興味のそそる話だね。そうでしょう。続きをお聞かせ願えるかな。もちろん。わたしは…そうね、茶屋の看板娘で貴方はさしずめ武士の端くれといったところかしら。俺様が武士とは驚いたが、しかし自分で看板娘とは大きく出たもんだ。黙って聞いて頂戴。茶々を入れたがるのは貴方の悪い癖よ。へいへい、分かりました。ある日お侍さんは上司に誘われてわたしのお店に足を運ぶの。きっとうるさい上司に違いない。あらそんなこと言っていると告げ口しちゃうわよ。げっ…それだけは勘弁してくれよ。ただでさえお前とべっちゃくってるのに減俸されちまう!考えておくわ。えーと、どこまで話したかな。そうそう、それでお侍さんは看板娘の美しさに見とれて恋に落ちてしまうの。そんなに惚れっぽくないけどね〜同じく看板娘もお侍さんが気になってしまって仕事が手につかなくなるの。その初々しい姿にますますお侍さんも熱を上げて、上司に言われずとも通ってくるようになった。それで、男らしく告白!ってところか?それもいいわね。黙って俺についてこい、くらいは言って欲しいものだわ。ふーん。そうだな、俺様もこんな状況じゃなければ言ってやりたいところさ。…つまらない男。最期くらい言ってくれてもいいじゃない。生憎、今は仕事中でね。こうして見取るのが精一杯の良心さ。安心しな、同じ里の誼できちんと埋葬してやるよ。あら、それはどうもありがとう。どうせならまた来世でお会いしたいものだわ。……っ、そろそろいいだろ?そう…ね…、あーあ、話したら疲れちゃったわ。陳腐な妄想に付き合わされたもんだ。こんな…乱世でなければ、あり得、たかもよ?それこそ「もしも」さ。本当に、冷たい、人だわ。早く貴方が、…来るのを、あっちで待って……


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「おい。おい?…死んだか」

眠るように息を引き取ったくのいちはかつて仕事も供にしたことがあるほど親密な仲だったと自負している。いつからかお互いに道を分かち合ってしまった。俺は真田に、こいつは伊達に。どうしてといまさら言っても仕方がない。いくら親しくても仕事であったなら敵同士、俺たちは殺しあった。そうして俺はこいつに勝ってしまった。

「黙って俺についてこいねぇ、随分普通の女みたいな夢を語るじゃないの」

そっとやせ細った女の体を持ち上げる。忍は死体を残さない。死体にも多くの秘密が隠されているために、火葬するのが本人のためだ。死してもなお荒らされては、こいつもおちおち眠ってもいられないだろう。

「俺はお前に死ぬなって言いたかった」

生きていれば、きっと旦那が開く泰平の世も見れたかもしれない。彼女が話していた未来も違った形で俺たちは結ばれていたかもしれない。なにしろ泰平の世が訪れれば忍は用済みだ。

「…馬鹿野郎」

ああ、愛していた。いや、愛している。

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紅と燃えた灰が目に染みた。そのせいだろう、涙が出るのは。


(100516)

わとちゃんへ!寂しいよううう