ピンポーンと音が聞こえて、テーブルに彼のため作っていた料理を並べている手を止めた。帰って来た、そう思って急いで玄関の鍵を開ける。
「ただいまでござる」
「はい、お帰りなさい」
予想通りそこには自分の夫が立っていた。鍵くらい持っているのにわざわざ幸村はインターホンをいつも押す。何でもこうやって誰かに迎えられるのが夢だったと本人が語っていた。散々色恋について破廉恥と喚いていた人が今じゃ新婚さんのばかっぷりを発揮しているところが不思議で仕方ない。だけれども、幸せなのだからそんなことはどうでもいいと考える自分も、相当夫に惚れ込んでいるようだ。
少し重い荷物を受け取ると、幸村は靴を脱いでそれからすんすんと何か匂いを嗅いだ。
「いい匂い…が?」
「あ、今日の料理はシチューですよ」
「いや、これはシチューの匂いではござらんな」
それからすんとまた嗅ぐ。一体どういった嗅覚をこの人は持っているんだろう。終いには、に近づいてすんと嗅いだ。それから少し眉を顰める。
「からする」
「え、わたし?」
それから自分でも服の袖をすんと嗅いで見る。なるほど、かすかに香水のような匂いがした。よくわかったものだ。記憶をたどって、この匂いが誰の移り香か考えてみた。
「あ、これ佐助さんの香水の匂いだ」
「佐助の?」
そう言った幸村の声は不機嫌な低い声だった。初めて聞く夫の声色に失言だったかとは冷や汗を浮かべた。
ついと幸村の手が無造作に伸びてきて、腕を掴まれる。そのままずんずんと夫は進んでいった。
「幸村、シチューが…」
「後で暖めればよい。それよりも風呂へ先に入るぞ」
抵抗虚しく、夫の素早い動きに身包み剥がされて痛いというほど髪も体も洗われた。ついでに夕飯より先に美味しくいただかれたのは言うまでもないだろう。
閉じ込められたら、
(どれだけいいだろう)
(080729⇒080830)
容赦なく佐助の匂いを落としたに違いない(笑)