予定は未定です
クリスマス以来だ、政宗くんの家に訪れるのは。相変わらずそれは綺麗な部屋だった。けれどリビングには新しい家具が置かれている。
「あ、おこた」
「ここんとこ冷えるからな」
「やった」
既に暖房はついているけれども、入らない手はない。政宗くんは蜜柑を手に反対側へと座る。
「さて、やるか」
「はい先生!」
政宗くんの家にお邪魔したのは他でもない。近づいてきた中間テストに備えて、勉強会を提案したのだ。会う口実とはいえ、越後高校は新学校で有名だから逆に失礼ではないかと考えもした。しかしかすがの(入手先は分からないが)情報によれば、彼は学年トップを誇る優秀な生徒だそうで、杞憂に終わる。
「テスト範囲は」
「ここ」
英語の教科書を手渡すと政宗はちらっと見て、蛍光ペンを取り出した。すっすっと読みながら熟語や単語が引かれていく。
「ざっとこれくらいだろ、覚えとけ」
「どういうことだってばよ…」
「だいたい教科書見れば教師がどこを出したいか分かる」
政宗はそう言って教科書をこちらに投げ返した。そうして寝そべり、某有名忍者漫画を取り出して、完璧に読み耽る体勢に持ち込んでくる。取ってつけたように「分からなかったら、呼べ」と呟いた。なんてやる気のない先生だろう…。
てっきり手取り足取り教えてもらい、偉いぞとなでなでしてもらう展開を想像していただけにショックは大きい。
「ひどい…横暴だ…政宗くんのいじわる」
「そんな男に惚れたのはどこのどいつだァ?」
「!!??」
あんまりにもあんまりな返し方をされて、思わず机に突っ伏す。穴があったら入りたいくらいに恥ずかしい。
「どーしてそういうこと言うかな!デリカシーのない」
「事実だろ」
「えーえー、そうですよー」
こうなれば勝てるはずもない。政宗くんの余裕ある態度に恨めしくちらりと腕の隙間から、彼を除き見る。
肘を突いた政宗くんの後姿、それが急にこちらを振り向いた。ばっちり目が合う。その顔は予想外なことに、わたしよりも照れていた。言った本人が照れていてはダメだろう。やだ、かわいい。は思わず先ほどの恥も忘れてくすりと微笑んだ。
「な、なんだよ…」
「別に〜」
両手を組んでじっと政宗くんを見ると、耐えかねたように彼はまたそっぽを向いた。なんだ、しっかり意識してくれているんじゃないか。現金なことには嬉しくなってシャーペンを再び手に取ったのだった。
後日政宗くんの予想は見事的中し、英語は好成績を収めたであった。
(110214)