三人寄らば
冬が景色を閑散としたものに変えていたが、久々に訪れた母校は懐かしさを色鮮やかに蘇らせた。校庭に広がる遊具はどれも当時の自分が駆け回った思い出深いものであり、廊下を歩く際も教室を覗いては、果たしてわたしはこんなに小さな机で学んでいたのかと驚くばかり。
集合場所はランチルームだった。きっと食事会を兼ねて旧交を温めようという魂胆だろう。
部屋にはすでに何人かが適当な場所に着席していた。すぐさま視線を向けられて、久しぶりとまずは言葉を交わす。女の子がぐいぐいと座るように促した。居心地が悪そうに政宗くんも横に座る。それに気づいたのであろう政宗くんを知る男子たちも集まった。
「隣の政宗くんだよね?あの転校しちゃった」
「えっ…どういう関係なの」
詮索好きの女友達は遠慮がちに装いつつもしっかり尋ねてきた。わたしはこないだ再会したことを話し、少しだけわたしが政宗くんとこの中では今一番仲がいいことを誇らしく思った。
ほどなく世間話に花を咲かせていると全員出席者が集まったのか、料理が持て成された。当時の学級委員たちが会を進行させて、わたしたちは相も変わらず話し合う。そのときひときわ大きな音でドアが開いた。そこには息を切らせた男の子が早口で「遅れて申し訳ござらぬ!」と随分古めかしい口調で捲くし立てた。視線を一気に独り占めしたのはほかでもない幸村くんだ。
おいおい遅刻かよ、幸村くん珍しい、とあちらこちらから囃し立てる。それに恐縮しながら空いた席に幸村くんは座った。即ちわたしたちの向かい側の席だ。
「…おい、なんでお前がここにいる真田幸村」
驚いたことに政宗くんが声をかけた。幸村くんも政宗くんの顔を見るなりびっくりして、
「政宗殿こそなぜここに!」
いつもの調子で大きな声を上げた。やかましいと耳を塞ぐジェスチャーとして声のボリュームを下げるように促す。ごほん、と学級委員がこちらを睨んだ。二人はまったく気にせず顔を近づけてお互いに事情を探りあう。
「俺はここが母校だからな」
「奇遇でござるな、某もここが母校だ」
「…お前がいた記憶がねぇ」
「某もだ」
このままでは埒が明かないとわたしは二人の間に割って入る。
「政宗くんは二年生のとき引っ越したけど、幸村くんは四年生のときにこっちへ引っ越して来たの。それより、二人とも知り合いなの?」
「知り合いも何も…同じ高校だ」
「え!」
「ついでに申し上げますと、某も政宗殿も水泳部に所属しておりますれば」
お互いに初めて同じ母校だったと知ったらしい。それが知りもせずに同じ高校に通って、かつ部活仲間とは。驚きを通り越して二人とも笑い始めた。つまりわたしを含めこの三人は知らないところで友達同士だったということ。政宗くんは言わずもがな、幸村くんとはクラスも四年からずっと一緒だったので結構親しい仲だ。
「幸村くんが水泳をやっているなんて知らなかった」
「高校から新しく始めたもので、殿は小学生のときから上手でしたな。授業のときイルカのように泳いでいたのを思い出します」
「なんだ?水泳の授業中にを気にしていたなんて、お得意の破廉恥にそれは該当しねぇのか」
「そ、某だけではござらぬ!だだだだいたい殿はよくお手本の泳ぎを皆に披露していのだ」
「さァて、どうだか」
いいように幸村くんはからかわれていた。楽しそうに話す二人を見て、いいなあと羨ましく思う。わたしも婆娑羅高校に行けばよかった。そうすれば同じ部活に入って、毎日もっと政宗くんといられるのに。
同窓会はあっという間に終わった。この後も集まろうとか近くの公園でまだ話そうといろいろ誘われたがすべて断り、政宗くんと幸村くんと一緒に帰ることにする。
「寒いな…雪が降りそうだぜ」
「どうせならホワイトクリスマスがいいね」
「何と!もうくりすますの時期か」
「真田、発音が悪い。Christmasだ、repeat after me?」
「こういうときぐらい授業から離れさせてくだされ」
むっとして幸村くんは怒る。さては英語嫌いだな、と言えば口を濁した。どうやら図星らしい。これ以上言うと機嫌を損ねそうだったので話題を元に戻した。
「クリスマス暇だったら集まろうよ」
「それは名案だ!ケーキでも買って皆で食べよう」
「そいつァいいな、場所はどこにする?俺の家でも来るか?」
この反応からすると彼女はいないようだ、とは内心ほっとしながら三人で仲良く話を決めていくのだった。
(100406)