腹が減っては戦が出来ませぬ


、一人で騒いでいたみたいだけどどうしたの?」
「べ、別に何でもないよ」

あくまでもポーカーフェイスを崩さずに母の質問を曖昧に濁した。不審な目で見つつも母はそれ以上追及はせずに箸を取る。
ホッとは胸をなで下ろした。このみんなが集まる居間で根掘り葉掘り聞かれたら困ったことになったからだ。
なにせいま隣にいる真田さんに誰一人気づかないのだから説明しようがない。
黙々と刺身を食べると物欲しそうな真田さんと目が合う。えっ、でも幽霊が食べれるはずないよね?みんなの前で話しかけるわけにもいかずしばしの沈黙が二人の間に流れた。

「どこ見てるの?呆けてないでさっさと食べなさい」
「あー、うん」

そうだった。真田さんが見えないならわたしはまったくあらぬ方向を見ているのだからぼんやりしていると思うに違いない。
再び真田さんの視線をかいくぐって前に向き直る。

「明日は盆踊りがあったよな」

父が唐突に話題を切り出す。そういえばそんなものもあったなあ、と去年の記憶を思い出した。

ちゃんも行く?」
「え〜でも友達いないしな…」

何しろ一年に数回しか来ない田舎なのだから当然友達などいない。おめかしをしてもむなしいだけだ。
そうねぇ、と母も困った顔すると父が何か思い出したように口を開いた。

「昔はよく隣の坊主と遊んでいただろ?」
「誰かいたっけ」
「…ああ、あの子ね!武田さん家の男の子」

母は納得したようにいうけど…ぼんやりと隣の家を思い出せば確かに表札は武田だったような…む、武田?もしやと思い当たるところがあって真田さんを見るとその通りだと言わんばかりに頷いてくれた。
なるほど、こう考えるとわたしの家系もおそらく武田繋がりなのだ。しかし男の子とは誰だったか。

「武田のとこなら今年は孫が帰ってくるって言ってたからそいつらも盆踊りに来るんじゃねえか?」

お隣さんということもあって祖父は武田さんと知り合いらしい。

「あら、そしたらきっと会えるわよ」
「ふうん…じゃあ行こうかな」

何より真田さんに関係することならその武田さんが何か六文銭について知っている可能性もある。だけど託されたのがうちの家系ならもしやうちにあるのでは?ふとその疑問が湧いたので祖父に尋ねてみた。

「六文銭?それなら婆ちゃんのときにやっただろ」
「そうじゃなくて…うちに代々伝わるものみたいな」
「いや、知らねぇな」

なんだ手がかりなしかとため息をつく。託された身なのに今まで伝わってないとはなんだか真田さんに申し訳ない。
ご馳走さま、と箸を置いて再び二階に駆け上がった。ぬっと真田さんは床を突き抜けて上がってくる。

「…やっぱり武田って真田さんが仕えていた人?」
「いかにも。の先祖も仕えていた」
「うそ」
「武士は嘘などつかぬ」

まさか教科書に載るほど有名な武将に仕えていたとは、そんなすごかったのかと驚いた。

「ますます武田さんは可能性が高いね」
「ああ、も幼なじみと会うのも楽しみでござろう?」
「そそそれはいいの!だいたい覚えてないもの!」
「そうか?旧友に会えるなど羨ましいではないか」

ハッとした。そうだ真田さんはもう亡くなっているから会うも何もない。友達も亡くなっているのだ。

「成仏すれば会えるよきっと」
「うむ…もしかしたら盆踊りにも来ているかもしれぬ」
「え?あっ、そうかお盆は霊が帰ってくるからか」
「何より某が成仏していないことであやつにも心配をかけているかもしれぬな」
「あやつ?」
「某の部下だ、いずれお話致そう」

真田さんも武将なのだから部下くらいそれはいるのだろう。だけどわたしと少ししか変わらない男の子が戦で武器を振り回している姿が想像出来なかった。


(091121)