解けぬ謎
政宗の興味はやがてゲームに移っていった。ここのところはあの携帯できるモンスターに夢中らしい。ひょいと後ろから覗き込むと、彼のデッキは鮮やかだった。先頭のかわいらしい電気鼠には自分の名前をつけている。
「名前つけるか、普通…」
「俺のデッキすげーだろ?もう四天王も倒したぜ」
確かにレベルが凄まじい。ひとつひとつ見せてもらい、名前の解説もしてもらった。
「このカモネギの名前、」
「小十郎だ、俺の世話係。口喧しいやつだ」
ああ、その人も苦労してるんだなあと同情する。政宗の世話係とはさぞかし多難な道に違いない。なぜカモネギにつけたのかが謎であったが。同じ一族ならせめてドラゴンタイプにしてあげようよ。
「バシャーモは真田幸村、俺のライバルだ。ゴウカザルはその部下猿飛佐助だろ。あとは毛利元就がメガニウムで」
仮にも神さまをポケモンに置き換えていいものかと首をかしげるが、政宗にもちゃんと神付き合いというものが出来ていることに驚いた。だいたい今だって家に引きこもってばかりで友達の一人も出来やしない。このままでは完璧にニート化してしまう。それはまずい。
急に危機感を覚えたは休日ということで、政宗を外に連れて行ってやることにした。小さい頃に使っていた遊具を持って公園へ。
ブランコや砂場とメジャーなものが揃っているごく普通の公園だ。俺は子供じゃないとぶつくさ政宗は文句を言っていたが、いざ来ると目を輝かせて走っていった。相変わらず性格は素直じゃないけれど欲望に忠実でいらっしゃること。わたしはベンチに座って政宗の様子をみつつ日向ぼっこだ。
公園にはまだ小さい男の子たちが砂場で遊んでいた。小さな手で城を築き上げている。スコップもなにのに大変だろうと感心しながら見ていた。それに気づいた政宗がブランコから降りてじっと彼らを見つめている。
子供たちは政宗に気づかずに砂場遊びに没頭していた。ところが砂はさらさらでさっきからよく崩れる。それを見兼ねた政宗は相変わらず高飛車な性格で言い放つ。
「おまえらばっかだなー、水を使えばいいんだよ水を」
「そんなことしたらどろどろになっちゃうよ?」
「少量にすればいいんだ。少なくってことだぞ」
言われたとおりに子供たちは素直に、蛇口から手にかかえるだけの水をひたひた持っていく。その通り、砂のお城はしっかりと崩れなくなる。
「お兄ちゃんすごーい」
きらきらとしたまなざしで子供たちは政宗を尊敬し始めた。これは面白い。ところが政宗は少しだけ眉をひそめて、持っていたスコップとバケツを彼らに向けて投げる。からんと砂場に落ちた。
「それ、貸してやるよ」
「本当!?」
嬉しそうに子供たちはさっそく使って仕上げにかかった。政宗はとぼとぼと歩いてわたしの隣に座る。
「一緒に遊んであげないの?」
「だから俺は子供じゃねぇんだよ」
ぶすっとしたままだ。いったい何が癪に障ったのだろう。ときどき政宗はよく分からなくなる。
静かに子供たちを見守って、道具を返してもらってから政宗と一緒に帰った。
「お帰りなさい。二人でどこへ行ってたのかしら」
「別に」
お母さんが台所から声をかけると、政宗は相変わらずぶすっとしたままでそのまま二階に上がってしまった。わたしの部屋にあるゲームでもしに行ったに違いない。
「政宗今日は機嫌悪いみたい」
「そう?いつも家にいるときもあんな調子よ〜」
「…そっけない、と」
「どうもわたしには慣れてくれないみたい。お母さん悲しい」
「ふーむ…反抗期かな」
首をわずかに捻る。その疑問は思わぬところでいずれ判明すると知らぬまま、わたしは二階へ政宗の後を追った。
(100715)