黎明にて綴る
ひんやりと冷たい二の腕に温かい手のひらが吸い付くようにくっついた。そのままぐっと引き寄せられて、固い胸板に頭がこつんと当たる。ぼやけた思考で顔をあげれば、優しい目をした政宗がいた。
「……?」
「起こしちまったみてえだな、まだ五時だぜ」
まだは上手く思考が働かない。五時、ああ、外は真っ暗だ。政宗の腕の中で再びうつらうつらしてきている。それとは逆に頭の方は何かを思い出そうと必死にぐるぐる回転していた。
そういえば学校、昼休み屋上に行けって慶次が、なんで、あれ昨日…。ひとつひとつ順に記憶の断片が現れて、はハッとして政宗を見た。顔色は随分よくなっている。は体の無事を確かめるように少し肌蹴た着物の上からぺたぺた触る。
「んだよ。くすぐってえ」
「体、大丈夫?」
「ああ…お蔭様でな」
「もう少し感謝の気持ちを表して」
「お優しいお嬢様のおかげでこの通り、ぴんぴんしております」
小馬鹿にしたような顔で言う。そういうの慇懃無礼って言うんだよ、と忠告すればほっぺを引っ張られる。
「いひゃい」
「何言ってるか分からねえなァ」
「…もー、それより!!」
こうして戯れている場合ではない。政宗の手を跳ねつけて、ぐっと問い詰めるように政宗へ顔を近づけた。するとそれに比例して政宗は無理に仰け反った。そ、そんなに顔を近づけるの、嫌がらなくてもいいじゃない。ちょっと傷ついた。
「元親くんのこと」
「…あ、ああ、そのことか」
「他に何があるのよ?」
「いや…」
チッと舌打ちして政宗はそっぽを向く。訳が分からないやつだと首をかしげたが、話を続けた。
「半妖って、言ってたわよね」
「言ったな」
「半分妖怪ってこと…?」
「そりゃあそうだ」
疑いなく政宗は言い切った。元親くんが半妖。半分人間なのに、半分妖怪の血が入っているということ。
「化け方が中途半端だろ。人間のナリをしているが、角は生えるわ、片目は色が違うわ」
「そういえば、政宗と同じ金色だった」
「それを隠したかったんだろうな。おそらく鬼神の末裔だ」
「…鬼神…?それって神様じゃない。だいたい半妖なら妖気があそこまで濃いのもおかしい、半分しかないんでしょう」
たくさんの疑問がありすぎて困る。政宗は説明に困った顔をして、さもめんどくさそうにまたひとつ舌打ちをした。
「続きは昼休みな。噂好きの風来坊がやってくれるだろ」
「えっ、聞こえてたの」
それには答えず政宗はじっと目を瞑った。そうなると後は何を聞いてもだんまりだ。わたしはふくれっつらをして、もぞもぞと政宗とは反対方向に寝返りをうつ。しっかりお腹は抱えられているので脱出することまでは出来なかったが。
(100808)
ベッドの中で密着していて顔を近づけられたら、誰だって期待しちゃうよね政宗くん。