解きかけた糸口の前に
慶次と話して、政宗と元親くんが歩み寄れるよう努力しようと意気込んだにも関わらず、だ。次の日から元親くんが欠席するようになった。空いた後ろの席を見てはため息をつく。いきなり出鼻を挫かれてしまった。
あれ以来政宗も少し元気が無いように見える。じっと未完成のプラモデルを睨む姿をよく目にするようになった。政宗も政宗で思うところがあるのだろう。下手に声をかけるより、一人にしてやるのが優しさだと思った。
わたしだって状況を整理するので手一杯である。最近またのぼせることが多くなってしまった。
学級委員で頼まれているプリント類をまとめながら、は今までに起きたことを頭の中で懸命に思い出し、解決策を考える。
元親くんは神堕ちした鬼の一族、そして半妖に等しい。本来ならば神と人間の、合いの子になれるはずだった。それでも多難が続いただろうが、元親くんは置かれている状況があまりにも最悪だ。人間界にいるということは、妖怪からも神からも見放されている存在に違いない。
そういえば以前妖怪が消えた後に元親くんがいた。その出来事を思い出してハッとする。元親くんがあの妖怪を祓ったのではないか。ならばやはり妖怪とも相容れない存在なのだろう。
妖怪の方は正直よく分からないのでどうすればいいのか分からない。ならば神の態度を変えることさえ出来れば、元親くんと政宗が争う理由が消滅するのではないか。幸い身近に神がいるのだ。鬼の一族を神籍に戻すことは出来ないか。譲歩してでも、元親くんの地位を向上させることさえ出来れば…
「そう、それだわ!」
「…。何がそれか分からないが黙って仕事しような」
ポンッと同じ学級委員の男子に、残念なものを見るような目で肩を叩かれた。すっかり仕事中ということを忘れていたことには気づき、慌てて向き直る。それに対してその男子は徐に資料を持って立ち上がった。
「俺はちょっと前田のところへ、文化祭について聞くことがあるから。それ終わったら先帰ってていいぞ」
「はいはーい」
もう文化祭の季節か、とぼんやり思いながらプリントをホチキスで纏めていく。全てが終わった頃にはもう日は傾きかけていた。いけない、政宗に怒られる。バッグに勉強道具を詰めなおして、資料を手に席から立ち上がった。
「貴様が、宗哲の子孫にあたるだな」
前方に見知らぬ男が立っている。入ってきた気配や音がなかったために驚いた。
男は制服ではなく、どこかの時代劇から飛び出してきたような服装をしていた。甲冑姿に、すらりと長い刀身をもつと鞘の上からでも分かる刀を帯びている。かすかに彼からは妖気を感じ取った。つまりこの男はただ者ではない、妖怪だ。
「私の質問に答えろ」
一歩一歩、今にも抜刀しそうな構えで近づいてくる。は構えようにも構えるものがなかった。
「そ、そうだと言ったら…?」
びりびりと次第に妖気が突き刺さんばかりに肌を刺激する。尋常じゃない。今まで感じてきたものよりもっともっと大きい力が感じられた。これはまずいと頭の中で警告が鳴る。
「秀吉様の許可の下、貴様を斬滅する」
(100813)