ゆるりと参りませう


豊臣一派が人類殲滅を目論んでいる。それはまるで低俗な小説を読んでいる心地を覚えた。あまりにも現実味を帯びない目的だからだ。いまどき世界征服なんぞ流行らないのだよ、と切り捨ててやりたい。が、如何せん豊臣ならやりかねないと政宗や慶次は思っているらしい。おそらく政宗は織田一派のときにも関わっている。

「暦もそろそろ十月だ。やつらの動向を探りがてら、出雲へ立つ」

その言葉にきょとんとしてだけ首をかしげた。十月に何かあっただろうか。

「神無月だよ」

慶次がヒントを投げかけ、はようやく氷解した。神無月は神様が出雲大社に集まる、だから神無月なのだ。出雲では神有月と言うらしい。

「そういうわけだ、西海の鬼。アンタには使いを頼む」
「…初仕事ってわけか?」

元親が挑発的な目線を政宗へ向けた。

「ああ。一足先に出雲へ向かってくれ。俺の屋代で首を長くして待っているやつがいる」
「おっ独眼竜、まさかこれかい」
「さすが色男。出雲でもはべらせているのね」

慶次がピンと小指を立てて見せた。随分古い所作である。それに対しは汚らわしいものを見る目で政宗を見る。慌てて政宗は弁明した。

「もっと怖えやつだよ…」

笑って言ったがかすかに青ざめていた。なるほど、恋やなんやという仲ではなさそうだ。
元親はひとつ返事でわかったとうなずき窓へ手をかける。えっと思った瞬間には飛び降りていた。待って、ここ、二階なんだけど…!!慌てて窓の外を見るが元親の姿は雲のように消えていた。

「何日かすりゃまた合流できるさ」
「…妖怪って何でもありなの」
「まあまあ、そういうわけで俺らもゆるりと向かおうか!」

ぱしんと膝を打って慶次が、まるで遠足に行くかのように言う。

「え、なに、えっ?わたしも行くの?」

薄々そんな気もしていた。けれどわたしは人間だ。神様の集う出雲へと足を踏むことなどおこがましいと思っていただけに慶次の発言に驚く。

「当たり前だろ。ここにおいておけばすぐ石田に殺されるぞ」
「それはやだ」
「だったら四の五の言わずついて来い」

ぐいっと政宗に引っ張られて、掬い上げるように抱っこされる。いつも小さい政宗に見慣れていた所為で、別人のように思えた。流れるような仕草にドキッとすれば、俺にほれたか、と政宗はニヒルに笑う。

「調子に乗るな!」
「いてっ」


(101001)