秋にて冬を知る
さきほどから竜の背では剣呑とした空気が漂っていた。つんと不機嫌なと、かすが。それをどうしたもんかねと苦笑いする慶次。一方政宗もだんまりを続けている。
どうやらは急上昇で舌を噛んだらしく、政宗を咎めた。しかし政宗は、自分は悪くないと言わんばかりに尊大な態度だ。それにかちんときたかすがはつっかかり、慶次の仲裁によって事なきを得たが未だに雰囲気は悪い。
「出雲はまだなのか」
「また舌を噛むのがお望みとあらば、速度を上げるぜ?」
「…貴様ァ!」
「まあまあかすがちゃん。ほら紅葉が美しいよ。ゆっくり風景を楽しみながら行かないかい」
言われた通り、確かに秋の紅葉が美しい。日本の七割の国土を覆うという山脈がきれいに色づいていた。日本の紅葉は世界でも絶賛され、その種類は最も多い。この小さき島に欧米よりも種があるのはまた面白きこと。
はここぞとばかり、自分の世界にどっぷりと浸る。最近はたくさんのことがありすぎてゆるりとした暇もなかった。いい息抜きにはなる。鼻歌交じりに近く見えた大きな山を見上げれば……
「あれ?」
「どうした」
が見つけた異変に政宗はすぐに気がつく。
はらり、はらり。白い結晶が山の頂上から降り落ちてくるではないか。全員が我が目を疑った。あまりにも早すぎる冬の訪れだ。
「紅葉に冬化粧たァ、粋だねえ」
「暢気に感想を述べている場合か、慶次!明らかにおかしいぞ」
「待て、何か声が聞こえる」
政宗の言葉にみな耳を澄ます。
「ゆき…ま、ご……」
冷たい風のせいでうまく聞き取ることが出来ない。だが響くような少女の声が確かに、途切れ途切れではあるが聞こえた。
突如山から雪崩のように雪の塊が落ちてくる。
「な、なにあれ」
「チッ…しっかり捕まっていろ!!」
政宗はギリギリのところで雪球を避けた。が、後続の雪球が重なっていたために感知できず、まともにくらってしまう。
「ッ!」
しっかり政宗の鬣を握っていたはずなのに、衝撃では手を離してしまった。吹雪の中でかすかに皆がバラバラに落ちていくさまが見える。
政宗の手がわたしに取れと言わんばかりに差し出されていた。ああ、待って、届かないよ。
「ゆーきだーるま、ごーろごろ」
最後に聞こえた少女の声は誰の者だったのだろう。
(101011)