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女性の敵 温かい。ぬくぬくと心地よい羽毛の肌触りと、冷えた体を癒してくれる…おそらくは暖炉の火。桜子はうっすらと瞳を開け、その存在を確かめた。やはり赤々と燃える暖炉だ。寒さの中の温かさは卑怯だ。毛布に頬ずりをして、わずかに身じろぎする。 あまりにの気持ちよさに再び瞼を閉じそうになった。 「桜子…?」 しかし不安交じりの優しげな声にそれは躊躇われる。頭の働かない桜子はうつろな目で自分を包む者を見上げた。 「まさ、む、ね」 どうしたの。そんなに心配そうな顔をして。そっと手を彼の頬に伸ばせば、大きな手に握り締められる。心底安堵した表情に変わった。 「…この馬鹿野郎ッ」 そのまま政宗はもう片方の手でわたしを抱えなおして、ぎゅうっと抱きしめる。ふわふわとした茶色がかった髪が首筋に触れてくすぐったい。桜子はぽんぽんと彼の背を撫でながらどうしてこうなったのか必死に記憶を探った。 そして吹雪の中で皆とはぐれた事を思い出す。政宗の肩越しに辺りを見回すと、どうやら小さな建物の中のようだった。大方山小屋だろう。ここまで政宗はわたしを運び、ずっと看ていてくれたの? 「ありがとう、政宗」 桜子からぎゅうと抱きしめ返すと、ようやく政宗は顔を上げた。泣きそうな弱々しい顔をしていた政宗だが、すぐに気持ちを切り替える。 「まったくこの足手まといのせいで慶次とあの女の行方も探せやしねえぜ」 「あ、だ、大丈夫かな… わたしはもう起きたから、大丈夫だよ?」 「いや。外は相変わらず吹雪でどうせ外に出れねえ。あいつらがここを見つけてくれるのを祈るしかない。それより」 こつんと政宗の額が桜子の額に当てられる。政宗の端正な顔が近づいて心臓が飛び出るくらいに驚いた。キス、されるかと思ったじゃないか。期待したみたいでひどく恥ずかしくなった。 「熱はなさそうだな。外傷もなかったみたいだし、ただ単に疲れただけか」 政宗の金色の瞳が優しく細められる。その慈悲にも似たまなざしに一瞬呑まれかけたが、桜子は政宗の言葉に違和感を覚えた。外傷もなかったみたいだし?それではまるでわたしの体をくまなく調べ、もとい見たかのような言い方ではないか。 ハッとして自身の体を毛布の中で抱く。さらさらとした肌に触れた。視線を移せば、着ていた服は下に水溜りをつくりながら干されている。 とどのつまり、桜子は全裸というわけだ。かろうじて申し訳ない程度にパンツだけは残っている。 どう考えてもここには政宗とわたしだけ。つまり脱がしたのは誰かと問われれば、 「い、一度ならず二度までも人の裸を…!!」 脱げないようにしっかりと毛布を握っていつまでもわたしを抱きしめている政宗の体をベリベリと遠ざける。信じられないこのケダモノ男。いくら見慣れているとはいえ、こう何度も嫁入り前の女性が裸を見られていいものか、いやよくない!羞恥を通り越して怒りが沸いてくる。 「Hh?濡れたまま着ていたらどんどん体温を奪っていくから脱がしてやったのに。感謝の二言目くらい欲しいくらいだぜ」 「うるさい色魔。脱がすだけならまだしも、外傷を口実にじろじろと見たんでしょう」 「人が下手に出ていれば調子に乗りやがって…犯すぞてめえ」 「やっぱりそれが本性ね。ああ恐ろしい竜だわ!神様どうかこのふしだらな竜に天罰を与えてください」 「神だァ?目の前にいるだろうが」 ぐいっと政宗が冗談交じりに薄ら笑いを浮かべて、桜子の毛布を剥ぎ取ろうとする。いくら冗談でも冗談で裸を再び晒すわけにはいかない。桜子はむきになって政宗の手をガリガリと離すように促す。 と、そこへ冷たい風とともに扉が開いた。 「おお…あったけー」 「貴様にしてはいい働きをしたな。このようなところに避難場所を作るとは人間も優れて、」 かすがの声は途切れた。目を丸くして二人を見るかすがの背中から慶次はどうしたのと覗き込む。 「あれ?もしかして俺たち邪魔じゃ」 「伊達政宗ええええ!!!」 慶次は気まずそうに頭をかいたが、かすがの方は嫌がる桜子を襲う暴漢伊達政宗と捕らえたらしい(強ち間違っていない)。ありったけの力を込めたかすがの拳が綺麗に政宗の右頬をクリーンヒットしたのであった。 (101013)