憎しみの連鎖


パチパチと燃える暖炉の火を境に、今や女子と男子の線引きがされていた。赤い紅葉が咲く政宗の頬を光がてらてらと注ぐ。と、同時に激しい火花がかすがとの間に行われていた。ぎこちなかったかすがとの関係はこの数分で急速に進み、かすがは守るようにしてを抱いている。

「…おい、それは俺のものだ」
「かわいそうに。このような唯我独尊な男と共によく今まで耐えていたな」
「えっ、う、うん」
「おまえどっちの味方…!!」

政宗がその境界線を越えようと立ち上がったときだ。急に言葉は飲み込まれてしまった。近くで浅い呼吸をするかすがの息もひゅうとかすれる。慶次の顔も険しいものとなった。空気が一瞬で凍りついたように張り詰める。

「急いで外に出ろ!」

号令のように政宗が叫ぶ。そ、外?この吹雪の中?声に出す前にわたしの体はかすがに抱きしめられたまま浮いた。雲散するように小屋から各自窓から、ドアから、壁から破壊してでも迅速に外へ出る。
の後ろから轟くような破壊音がした。山小屋が雪崩にあったかのように、巨大な雪玉によって踏み潰される。
そしてかすがはを真新しい雪の絨毯に下ろした。吹雪が既に止んでいることに気づく。そしてわたしたちの前に可愛らしい女の子が立っていることにも。

「おめえさんたちだな」

少し訛った口調で、敵意むき出しに呼びかける少女。随分と軽装で小柄な少女には似つかわしくない木槌が握られていた。寒くないの、とか、重くないの、とか。さまざまな疑問が押し寄せたがことの元凶はこの子ではないかと直感的に思う。

「雪女か」

政宗の推測は当たっていた。
その問いかけに答えるでもなく、少女は木槌を政宗に振り下ろす。すさまじい衝撃に雪は飛び散った。政宗はそれを交わして神気をふりかざすも、少女の吐息とともに送り出される雪に阻まれる。特殊攻撃と物理攻撃がお互いに相殺し合っているようだ。

は下がっていろ」

政宗一人では埒が明かぬと見て、かすがはを木陰に押しやり、自身も戦いに投じる。慶次も背中にある大剣を抜き出して風を纏い、雪を振り払う。
はそっと彼らを見守っていたが、思考だけはぐるぐると働いていた。分からないのだ、少女の目的が。

「待って。どうしてわたしたちを狙うの!?」

思い切って、大きな声で少女に尋ねる。お互いに和解が出来るきっかけさえあれば、この不毛な戦闘を避けらるはずだ。
少女は聞かれたことが憤慨だとばかりに、だがしかし悲壮感を露に少女は言葉を紡ぐ。

「おめえさんたちが、おめえさんたちが、織田を…蘭丸を、殺したんだべ」

ぎゅうと少女は持っている木槌を握り締める。その小さな手が悲しみと悔しさを物語っているようだった。織田という言葉にはハッとなった。蘭丸というのは、おそらく織田軍の者だったんだろう。それを滅ぼしたのは紛れもなくの先祖である宗哲だ。

「チッ、織田軍の残党ってわけか」
「そんなけったいなもんでねえ、おらはただ蘭丸の弔いをしたいだけだ」

ブンッとひときわ大きな音を立てて木槌は振り下ろされる。鋭い氷が弾けるように生まれた。
その氷が矢の如く自分に降り注いでくることに、少女の言葉に深く動揺していたが気づいたときはもう遅い。

(うそ、やだ!)

咄嗟に防衛本能が働いて手を前にするも無駄な抵抗だろう。覚悟をして目と瞑ったとき、キインと金属音が鳴り響く。襲ってくる衝撃が来ないことに不審を覚えて目をそろりと開ければ、見知らぬ男が短刀を構えて立っていた。


(101105)

そろそろワンパターンすぎて…!