恋せよ、乙女たち
「霊力とは、神仏や霊魂に関しての力を言います。人によって度合いは違いますが、見たところさんは随分強力な力をお持ちのようです」
鶴姫と呼ばれる巫女さんは名前の通り、可愛らしいお方だったが、強い芯を持っていた。なによりには感じたことのないほどの強い気を浴びているように思われた。毒々しい妖力や神々しい神気とはまた違った、白い靄とした色が見える。
時々北条の式神である風魔から見えるうっすらとした霧のようなものではなく、はっきりと見えるほどに、だ。白い靄は雲散することなくしっかりと鶴姫の体を守るように覆っていた。
「ただその力をはっきりと意識できてないようにお見受けします。攻撃の際私は弓矢を使いますが、そういったように始めは何か物に力を込めて、具現化した方が分かりやすいのかもしれません」
やおら俄かに鶴姫は立ち、矢筒から鏑矢を取り出した。それを天高くに向かって真っ直ぐに射る。鏑矢特有の鋭い音が鳴り響く。
「私はこれで先見の力を得ました!きっとちゃんもばばーんと先を見通せますよ☆」
先ほどの神妙な雰囲気とは打って変わって実に年相応の喋り方になる。知らず知らずには硬くなっていたが、一気にその緊張が解れた。
「ありがとう鶴姫さん、あの、でしたらこれを使えませんか?」
が鶴姫の矢のようにと思って取り出したのは、いつぞや政宗から贈られた守り刀であった。
「鶴姫、でいいですよ!それは…きゃっ☆ もしかして噂の政宗さんって人からですか!?」
「え、ええ、そうよ。えと、鶴姫ちゃん」
「あっ その様子じゃあんまりわかってないみたいですね!」
「やっぱりこの小刀、何か意味が?」
「そうですね〜 この修行が終わったら教えてあげます。霊視や除霊は出来るみたいなので、まずは簡単な降霊をやってみましょう!!」
「えっ…そ、それは本当に簡単なの…?」
彼女のペースにすっかり飲まれて、は手ほどきを受けることになった。
その微笑ましい様子を肴に、近くで慶次と元親は飲み交わしている。
「ちゃん、張り切っているみたいだね〜」
「鶴の字に振り回されているようにも見えるがな。しっかし、なんで政宗はダメなんだ?」
が鶴姫のところへ師事しに行くと聞いた政宗は当然自分もついていくつもりだった。ところがの断固とした反対によって、しぶしぶ出雲に残っている。代わりのように神使である自分を護衛に付けたものの、あれは相当拗ねていた、と元親は思い返す。
溜まりに溜まっていた雑務を片付けるにはちょうどいい機会だと、今頃小十郎によって部屋に閉じ込められているだろう。
「ん〜、それはちゃんにも思うところがあるってことだよ。恋、だねえ」
「……はァ?ったくわけがわかんねえぜ……って、うおおお!?風魔!?!?」
まったく気配を感じさせない様子で元親の隣にいつのまにか風魔が立っていたものだから、二人は驚いて仰け反る。彼は二人を一瞥してから、の元に一枚の文を差し出した。
「誰かしら」
突然の風魔の出現に面を食らったが、すぐに文を開くと、それは政宗からであった。早く帰ってくるようにと心配した体で旨が綴られている。政宗としては佐助の事もあったし、気が気でないのだろう。
だが、はまるで信じられていないことに少なからずショックを受けた。乙女心とはまことに複雑である。
「……こうなったら、徹底的に強くなってやるんだから!鶴姫ちゃん、やるわよ!!」
「は、はい!あっ でも待ってください今のお方は…ああ、いなくなってます…」
宵闇の羽のお方はいずこに〜、という鶴姫の声は完全に無視しての修行は始まったのである。
(120416)