この手を掴むことが出来ない
「何をしに来たの…?」
幾日かぶりに会ったというのに、口をついて出た言葉は自分でも驚くほど冷たかった。同じように面食らった政宗が目を見開いてを視界に移す。
「……」
「わたし言ったよね。政宗は来ないで、って」
「だけど、俺はおまえ一人が心配で」
「それが迷惑だって言ってるの!!……ッ!!!」
おそらく自身もこれほど叫ぶつもりもなかったのだろうが、辺りが静かになるほど注目を浴びた。揺れては返す波間だけが、の思考をみるみる冷やしていく。何を苛苛しているのか。修行が上手くいかないから?来るなと言ったのに政宗が来たから?信頼されていない、いつまでも弱い自分に?きっと全てだ。
「…押しかけて、悪かったな」
いつもの政宗ならここで文句の一つでも言い返しただろう。の尋常ではない精神状態を目の当たりにして、自分でも失言したと思ったらしい。大人しく引き下がった。
「あ、……」
他ならぬ、のためにせっかく足を運んだというのに。分かっていでもその背中に謝る言葉は出てこない。
「よう、いいのか?何なら政宗の後を追うの、手伝ってやるぜ?」
「いいの。しばらく一人にして」
おそるおそると言った様子で元親が、一応は主人である政宗のことも考慮して提案する。それでもはかたくなに断った。こんなあやふやな気持ちのままでは、会ったところで再び彼を傷つけるようなことしか言えない、とは分かっているのだ。
「何かあったら、いつでも声をかけてくれよ。力になるからさ」
「ありがとう、慶次。でも大丈夫。鶴姫ちゃんも、また明日よろしくね」
「ちゃん……」
政宗を遠ざけたのはの意志だが、明らかに彼女こそ傷ついていた。上手くいかないことがあまりにも多すぎて、自分の感情が処理しきれないのだろう。
それも"政宗がいない"状況下で起きていることが、よりいっそう苛立っているのだ。
「鶴ちゃん、言わなくていいのかい?政宗がちゃんに、家紋入りの小刀を与えた意味」
「いま言ったところでますますちゃんは自分を責めるばかりです。彼女自身で気づくことが大切だと思いますよ」
「恋に障害はつきもの、とはいえ難儀な二人だねぇ…」
「お祭お兄さんも、孫市ねえさまと上手くいくといいですね☆」
「えっ!な、なんでそれを知っ…、預言者だからって何でもありかい!?」
「さやか相手じゃ、慶次も大変だな」
「だから元親さァ!そんな親しそうに呼ぶなんてずるいよ!!」
「話の趣旨が変わってねぇか…?」
三人の盛り上がりをよそに、は早々に自室で眠りについたのであった。
(120724)