過去の干渉


この感覚には覚えがあった。
ゆらりゆらりとぼやけた視界が次第に定まって、三人の男を映し出す。

「君たちだね、明智を唆(そそのか)したのは」

静かに、しかし語調は厳しく。内に秘めた怒りを押し留めている様子で、宗哲は二人に確認をした。

「さすがといったところか、宗哲君。少し気づくのが遅かったようだが」
「目的は信長公亡き後の世界掌握っていったところかい?……竹中半兵衛」
「ふふ、本当に鋭い。故にやっかいだ、ねえ秀吉」

仮面の美丈夫が隣に立つ大男に言葉を投げかける。そこでようやくは、二人こそが倒そうとしている敵であることを知った。陰と陽、月と太陽、その神らしく姿形は実に対照的だ。

「矮小な人間の存在など恐れるに足りぬ。今ここでその命を終わらせてやることも出来るが、どうせ信長のために散ることが運命(さだめ)られている行く末よ」

威厳たっぷりに秀吉は切り捨てた。

「そうだね、生憎と大神二人を封じて信長に勝てるとは思っていない。だが、君たちが直接信長に手が出せなかったのを見ると、まだまだその力が馴染んでいないと見える」
「……まったく、君の推察力は惜しむべきものがある。そう、残念なことに僕たちではまだ少し力が足りない。それももう数十年経てば」
「そうか、やはり数十年。それでは早すぎる」
「? いったい何の話だい」
「なに、あと数百年眠ってもらおうということだ」

宗哲の背後で闇が蠢く。初老の男がゆったりと、"そこ"から沸き歩いてきた。その男に見覚えがあるのか、二人の顔に緊張が走る。

「見覚えがあるだろう?松永久秀殿、宜しく頼みます」
「…上々、貴殿は戦場に戻るがいい」
「どういうことだ、いったいこの男を何で釣った!?」
「人聞きの悪い。ただ少し、この未来(さき)を教えただけです」
「そうか、先見の……くっ!」

言い終わるか否か、二人の姿は松永久秀と共に忽然と消えた。松永久秀、彼は宗哲と同業であるらしい。ただあの黒い闇はおそらくよくない力に手を染めているのだろう。久秀が二人を数百年封印したと見て間違いはなさそうだった。

「頼んだからね。遠い未来の我が末裔よ」

まるで見透かしているようにの方を向いて宗哲が言うものだから、どきりとした。
そうか、先見の力。それがあるからこそ、隔世遺伝によって蓄えられてきた力を強く継承した私の力を―――?自惚れかもしれないが、そう考えればつじつまが合う。だからこそ半兵衛は執拗に宗哲の子孫であるを恐れているのだ。数百年も遅れた計画がこれ以上狂わないように。

「気づいたようだね」

背後から再び同じ声が聞こえた。振り向けば、宗哲が相変らず笑みを絶やさずにを見据えている。誰でもない、しっかりと自身を。



(120904)