Do you understand?
(何と、)
言えばいいのだろうか。は第一声が紡げずに思案した。ただただ喉が掠れて、ひゅうと小さな音を立てるだけ。
「あなた、は」
ようやく出せた言葉も緊張で震えた。それを察するかのように、目の前の男はゆっくりと近づいてきた。ぬう、と伸びた大きな掌に一瞬怯えるも、頭を優しく撫でられて呆然とする。
「うん、君のご先祖様だよ」
毒気を抜くような笑顔に、はようやく肩の力が抜けた。へなりとしゃがみこむと、心配そうに宗哲はかがみこむ。
「びっくりした?」
「ええと…はい……」
「ごめんね、ちゃんには伝えたいことが多すぎて何から見せてあげればいいのか…、いろいろとあったから」
「あ……」
『もしかしてここ何日かの間に不思議な夢、とか見ていません?降霊が上手くいかないのも、何かの干渉があるように思えます』
の中で鶴姫の言葉の意味が氷解した。つまりは、これだったのだと。
「見せた意味は分かるね?織田信長の人類殲滅計画を阻止したのは紛れもなく私たちだ。けれど、神使である明智を唆したのは豊臣方の作戦。私達の相打ちを狙い、数年後に彼らが表舞台に立つはずだった。それを先見で知った私は彼らを封印し、"来るべき時"を待った。それが君たちなんだ」
「それじゃあ、やっぱり政宗は……」
全て宗哲が用意した舞台の駒にすぎないのではないか。はそう言いかけたが、ぐっと飲み込む。宗哲は気づいていないのか、気づいていながらあえてなのか、話を続ける。
「ちゃん、君は随分巫殿のところで霊力の制御を覚えたらしい。だからこそどうか、豊臣との戦いでは私を降霊してくれないかい」
「えっ?宗哲さんを、ですか」
「うん、だめかな」
「いいえ!力になっていただけるだけで嬉しいです!」
願ってもいない申し出だった。これだけ心強い降霊相手はいないだろう。
宗哲は心得たとばかりに笑顔で頷き、それからの心の臓を射抜くように指差した。
「ね、若い君たちに人生の大先輩が、少しばかり教えてあげよう」
常に肌身離さず持っている、政宗からもらった小柄が夢の中だというのに現れる。いや、夢の中だからこその業なのかもしれない。おもむろに宗哲はその鞘から刀身を抜いた。
「まずこれね、天羽々斬(あめのはばきり)っていう竜殺しの剣なんだ」
さらりと、そう、まるで「今日の天気は雨なんだ」と何でもないように言ってのける。
「だって…政宗は龍神様でしょう?それって、じゃあ、政宗を斬るための…?」
「ある意味そうとも言える。つまりね、政宗は自分の命を君に委ねたってことになる。龍神の一族は自分の伴侶たる人物を見つけた際にこうして竜殺しの剣を相手に授けるんだ。それが彼らの信頼の証。おっと、それだけじゃあないよ。この伊達家の家紋が鞘に描かれていることが意味しているのは"二世の契り"を誓ったことになるんだ。意味、知ってる?」
「現世のみならず来世まで夫婦として連れ添おうという約束…」
「そう。あのね、政宗は私の約束を律儀に守っているだけならこんなことする必要はないよね。彼はもうとっくに覚悟は出来ているよ」
(嗚呼、私は莫迦だ)
は文字通り目の前が真っ暗になった。
(121205)