押しの一手
「秀吉に従う…?フッ、寝言は寝てからいいな、豊臣の軍師」
鼻で一蹴し、政宗は不敵に笑う。とうとう姿を現した竹中半兵衛に、抑えられないほど腸が煮えたくっていた。それも今までの経緯を考えれば当然であろう。裏から画策し、と小十郎を狙った張本人が目の前にいるのだから。
にとっても、三成に襲われたことから始まり、宗哲の夢にも出ていた男がようやく姿を現したという思いであった。彼は間違いなく敵であり、倒さねばならない。
一刀にして叩き斬ってやろうと息巻いて、政宗は前に出た。が、それよりも先に慶次が半兵衛に問い詰める。
「秀吉は?その先にいるのか!いったいどうしたって、こんなことを企んで…秀吉は本当に人間を滅ぼそうとしているのかよ!!」
いつも温和な慶次には珍しく声を荒げるものだから、と政宗はびっくりして彼の背中を見る。政宗に至っては毒気を抜かれ、逆に冷静な思考が戻ってきた。
「……随分と、なつかしい顔だね、慶次君。ここまで来たということは、僕が答えなくても分かっているとは思うけど。時間が惜しい、くだらない問答に付き合っている暇はないよ」
「ああ、そうか。だったら……そこを通してもらうまでだよ!」
「風来坊!」「慶次!!」
二人の制止も無視して、慶次は大剣を振りかざした。怒りに満ちた激情とは裏腹に、桜吹雪がふわりと風に乗って、剣に宿る。半兵衛の関節剣が風を切るが、大振りの攻撃に巻き込まれる形で押されていた。
「すごい……慶次…」
「風来坊は伊達じゃねえな。分かってはいたが、アイツの力は相当のもんだ。ただし、本人は喧嘩が性分らしいが」
政宗はこちらにまで余波が来る風から、守るようにしての前に出る。
慶次の猛攻に半兵衛は負けていなかったが、彼は唐突に胸をおさえた。その一瞬の隙を慶次がつく。
「……くっ、すまない…秀吉…!」
「半兵衛、おまえまだ呪詛が……」
以前慶次が言っていた、人間にかけられたという呪詛。おそらく松永久秀のものだろう。月を司る大神といえど、秀吉を庇ってまともに食らったに違いない、未だに体を蝕んでいるらしい。
半兵衛がほぼ力を使い果たしたことで、彼の神気で閉ざされていた扉が開く。間違いない、秀吉のいる天守閣へと続く道が。
逸る気持ちを抑えながら、三人は天まで続く階段を駆け上がった。
果たして、秀吉の前に横たわる式神風魔を見て、その歩みも止まる。太陽神は、悠然と、そこに座していた。
(130531)