覇王・対峙


「風魔さん!」

は慌てて地面に伏している風魔に駆け寄る。彼の体はうっすらと透けていて、彼の形を象っている式札(しきふだ)が悲鳴を上げているが見て取れた。北条の霊力をもってしても、豊臣秀吉の前では無力に等しいのか。軽い、絶望に見舞われる。
豊臣秀吉は、想像していたよりもずっと大きな神様だった。阿修羅、金剛力士像、不動明王みたいな…えーと、例えが仏教ではあるけれども、とにかくそう、雄大で荘厳な、神様だ。
秀吉は横たわる風魔にも、駆け寄ったにも目をくれず、政宗をただ睨み据えていた。

「小さき竜が何のようだ」
「ちょいと猿山のボス猿を倒しに来たまでよ。覚悟はいいかァ?」

政宗は最初から全力という姿勢で、六爪を構える。

「ま、待ってくれよ!なあ、秀吉!人間を滅ぼすなんて馬鹿なことはやめてくれ、そんなのねねも望んじゃ…」

臨戦態勢に入った二人を、慌てて慶次は止めに入ろうとする。しかし、彼の言葉は風圧にかき消された。一瞬で、二人は拳と刃を重ね合わせている。

「風来坊、もう言葉で済む段階はとっくに過ぎちまってる。アンタの言葉はもうこのお猿さんには届かねえよ」
「……死か、服従か、今ならまだ選べるぞ」
「No kidding!」

政宗の纏う雷と、秀吉の光が交差して、月夜を昼にと染め変える。強大な神気がぶつかり合う様は、まさに死闘、生死をかけた戦いと呼ぶに相応しい。それでも、太陽神と呼ばれる秀吉の力がわずかに勝っていた。ずりずりと政宗は力に気圧されて、後退していく。踏ん張りが利かぬようで、地面には黒く引き伸ばされた足跡が、どれだけの力で押されているか如実に語っていた。

「ま、政宗!」

とうとう政宗の体がふわりと宙に浮く。途端に秀吉が振り下ろした片腕の風圧で、政宗の体が飛ばされた。慶次が受け止めようと構えるが、二人共に固い城壁に押しつぶされる。

「ぐっ、……」

苦しそうに政宗が堪えた音を出したが、それもせり上がってきたものを抑えきれずに、黒い血を吐く。とても立てるような状況ではない。何本か骨もいってしまったのではないだろうか。六本の刀は彼の手から離れて、転々と地面に突き刺さった。
慶次の方は特にひどく、政宗と壁に挟まれたせいもあってか、まともに受け身も取れないまま意識を失っていた。

秀吉の歩みは止まらない。とどめと言わんばかりに、彼らへ近づきその拳を振り上げようとする。

「ままま待ちなさいよ!」
「……」

黙って見ていられるわけがない。声が震えて、情けないけれども、それでももう私しかいないのだとは自分を奮い立たせた。


(131108)