永遠に巡り合う


「また、俺は間に合わなかったのかな」

慶次はぼそっと呟く。覇王・豊臣秀吉は独眼竜の前に倒れた。彼の人間殲滅という覇道はここに潰えた。それは家康の宿願であり、政宗のけじめであり、喜ばしいことのはずだ。けれどもはなまじ、秀吉と慶次の過去を知ったばかりに、手放しで喜べないところがあった。

「ぶん殴って、目を覚ましてやろうと思ってたんだけどなァ…ぜーんぶ、独眼竜にいいところもってかれちまった」
「早い者勝ちってやつだ」
「まったくずるいよな〜、かなわねえや」

それでも少し晴れたような表情で慶次は漏らした。

「それで?そのデカブツをどうする気だ?たぶん、起きたら殺せってとでも言いそうだぜ」
「うん、そしたら今度こそ殴って、そうだな……十六夜の月見とでも洒落込もうか」
「相変わらずあまっちょろくて夢みてえなことを言いやがる」
「慶次のいいところだよ」
「ありがとう、ちゃん。……二人はこれからどうするの?」
「え?あ、ああ、そういえば」

考えてなかったとは気づいた。いつまでも出雲に滞在するわけにもいかないし、何より身の危険は去ったのだ。帰るばかりであろう。

「決まってんだろ。このまま出雲の伊達屋敷で祝言あげて、下界ハネムーンだ!」
「……は?」
「おいおい、こないだの言葉。忘れたとは言わせねえぞ」
「なんだっけ」
「『終わったら式を挙げよっか』って言ったのはそのかわいいお口だろ〜?」
「いひゃい!いひゃい、ほ、ほうだっけ〜?」
「まだしらばっくれるつもりか。小十郎が白無垢用意して待ってる、急ぐぜ」
「えっ?人の話聞きなさい、やだ、ちょっと!!」

有無を言わせず、政宗は竜の形になり、を背に乗せて飛び立つ。
残された面々は苦笑いを浮かべながら、これからどうしたものかと思案した。秀吉が倒れた今、大神の頂点に立つのは政宗と言っても過言はない。それが当の本人が自覚なしに、まずは想い人と添い遂げることを目標として旅立ってしまったのだから、さあ大変。
ここにいる大神はまだその座を狙っていないわけではない。次の火花が散る。

「はいはい、ここは矛を収めて。とにかく今は各々休息を取ること!いいね!」
「風来坊…なぜ貴様が仕切る」
「はは、慶次の言う通りかもしれないぞ、毛利。ここはひとつ延長戦ってことで、またの機会にしよう」
「謙信様抜きでやるなど許さない!」
「うむ、お館様のご回復も待っていただこう」
「言いたい放題だな…その時はまた、契約の相手を選ばせていただこうか」
「…俺はお邪魔虫ってわけだな」
「そう拗ねないの、鬼の旦那。俺様だって同じだから。ま、のーんびり竜の旦那たちが戻ってくるのを待ちますか」

それが相当時間がかかるだろうな、と誰もが思いながらも、誰もが戦で傷ついた体を癒すために異論はなかった。



ゆらりゆらりと政宗の背に揺られて、はいつものように考え込んでいた。
最初に政宗と出会ったのも、この竜の姿であった。あの時は自分の力もよく分からずに、政宗に封を施して、生意気で小さな竜を家に置くことになった。あの雨の日、もしあそこで政宗と出会わなかったら―――いや、そんな未来はとても想像できない。

「なあ、
「ん?」
「忘れるなよ。来世だけじゃねえ、そのずっとずっと先でも、必ずお前を見つけ出して、娶ってやるからな」
「呆れた……」

まったく大変な龍神様に捕まってしまったようだ、と今更ながらにはこの先を思いながら笑った。彼なら本当にそうするだろう。分かっているからこそ、安心して彼と共にいることができる。それがこれ以上もないほど幸せなのだ。


神立ちが五月蝿いので、
巫女は龍神と二世を誓ったのです



(131108) end.
三年と長い間お付き合いくださいましてありがとうございました。
ここにようやく完結いたしましたこと、心より感謝いたします。