とんと色事に縁はない様子
シャーペンをくるくると回す。眠気覚ましにやっているがあまり効果はない。最近疲れと寝不足で死にそうだった。育児をしながら学生もやっている気分である。友達にどうしたの?と心配もされるほどだ。
だいたい400歳にもなってベッドに来るなよ、とはため息をもらした。本来の活動時間は夜らしい。政宗のかまってかまってのせいで寝不足なのだ。よほどこないだ行った下界探索に刺激を受けたらしく、子供のようななぜなに攻撃を仕掛けてくる。どうせ今ごろは優雅にお昼寝でもしているのだろう。ちくしょう、むかつく。
(もー、だるい)
手からシャーペンは離れて、わたしはそのまま机とこんにちは。ちらっと横を向けば、青空がカーテンの隙間から見える。窓側の後ろから二番目、これがベストな席だろう。
無意識にわたしはあまり入っていない机の中に手を入れた。するとガサガサとした封筒のようなものに手が当たる。あれ?こんなもの入れていたかしら。
そっと周りに気づかれないように封筒の中を開けた。手でバリケードを張りながら中を覗くと、少し乱暴な男らしい字で、昼休み屋上にて待つ、とあった。こここここれは!!驚いて手紙がくしゃりと歪む。間違いない。ラブレターというものだ。
ラブレターだなんていまのご時勢、絶滅危惧種に相当するほどのもの。しかしベタなことに差出人の名前がない。これはこれでドキドキする。どうしようかっこいい人だったら。試しに付き合ってみる?そわそわと落ち着かない。
チャイムが鳴った瞬間に、友達がロッカーへ教科書を片付けている隙をついて屋上への階段をこっそり上がった。ドアを開くと当然のことながらまだいない。屋上は本来立ち入り禁止なのだが、誰かが鍵を壊したせいで実は行き来が可能だ。といって大っぴらに行けば先生たちにばれるので、滅多に行ってはいけない暗黙の場所。それこそ呼び出すときとか、さぼるときとか、そういうときに生徒の間で使用される。
「ごめん…待った?」
にっこりとしたさわやか系男子がドアを開けて、わたしに手を振った。この人が、わたしを?少しだけ驚く。サッカー少年で有名な隣のクラスの男子だ。残念ながらガールズトークについていけないわたしは名前も知らない。
「あ、ううん」
「よかった。あの、呼び出した理由は分かると思うんだけどね、」
緊張しているらしい、胸に手をあてている。でもまっすぐこちらを見ている瞳はまっすぐで、うーん確かに密かに騒がれるのも分かる気がする。はてさていったいなぜこの男子がわたしに告白してきたのは謎だけど。
「僕、君の事好きなんだ。だから、付き合って欲しい」
うわっ、これはかっこいいかも。思わず胸がきゅんとくる。どうしようどうしよう、これはいい、よね?なによりわたし好みな男の子だし、うん、まるで政宗と正反対の…
「おまえこんなひょろっこいもやしと付き合うつもりなのか?It's crazy.」
後ろから聞きなれた少年の声が聞こえた。サッカー男子は驚きで目を丸くしている。振り向くと、まあ、やはりというか…政宗がいた。なぜ学校に、そもそもどうやって屋上に来た!?慌てて彼の目線に会わせてしゃがむ。
「ちょっと、なんでこんなところにいるのよ!」
「あ?俺がどこにいようがいまいが、俺の勝手だろ」
「よりにもよって告白の瞬間を遮ることないじゃないの…」
「見計らって出たからな」
「このくそがき!!」
「うるせー、雷落とすぞ!」
「…あのー?」
ついいつもの調子でいがみ合っていると、遠慮がちにサッカー男子が声をかけてくる。若干笑顔が引きつっていた。
「ごめんね。さんに隠し子がいたなんて誰にも言わないから!へ、返事もまた今度でいいよ」
「…ちょっ」
ちょっと待って。あなたすごく誤解してない!?呼び止めようとした手を前にドアは冷酷にも閉まった。へなへなと屋上の床に座り込む。
「おまえみたいなやつでも告白されるんだな。よかったじゃないか、返事はまた今度でいいそうだぞ」
「そんなの日本式婉曲的拒否反応じゃないのー!ばかっ、ばか!!」
せっかく学生生活が恋で色づくチャンスだったのに。腹いせに政宗のよく伸びるほっぺを引っ張ってやる。
「いっててててて、ふ、ふざけんな」
「ふざけるなはこっちの台詞よ…学校にまで許可無く来て…」
「ちくしょー、夜覚えてろよ!」
「あーあー、聞こえない聞こえない」
まだまだ育児生活からは抜け出せそうにもありません。
(100710)
竜だから空だって飛べちゃうんです。一応小さいながらも竜化は出来る。神気で人間からは見えなくなることも出来る…はず。