ちょっとした仕草が
コンクリートから蒸気が見え、視界は熱さで歪んでいる。だらだらと額と首筋に流れる汗を無駄な抵抗と知りながらもなるべく影を選んで歩く。前方には女性のペースに遭わせず我が道を歩く伊達。おまけに催促してくるから熱さイライラしているのが余計にひどくなる。
「ねー、まーだ?」
「あともうちょいだろ」
「さっきもそれ聞いたよ…」
一歩一歩が重くなってきて、ベンチを見つけて座るとすぐに罵声が飛んできた。そういえば伊達は部内で特に熱さへの免疫が弱い。彼も存外イライラしているようだ。
わたしたち二人は何をしているのかというと、夏に行われる大会へ申し込みをするために河内高校へと向かっているのだ。うちに負けず劣らず駅から遠いこと遠いこと。
結局着いたのはそれから五分後だった。は全然もうちょいではないとさんざん文句を垂れたが案内されたパソコンルームに入れば途端に止んだ。その涼しさに思わず目をつぶる。
「ああ、君たち婆娑羅高校かな?」
「は、はいっ」
すると急に呼びとめられて驚いて振り向くと、どことなく儚げな美青年が立っていた。眼鏡の奥の瞳は優しく細められて、ふふと漏らす笑顔に思わずドキッとする。私立だからか制服姿に、名札には竹中と書いてあった。元親くんとはまた違った魅力のある男子で、なおかつこちらも好みだ。そう思っていたら心の内を呼んだのか伊達に頭をはたかれた。
「こっちだよ、やり方を教えよう」
「ありがとうございます!ほら、部長」
「あ?なんで俺がやんなきゃならねぇんだ。お前がやれ」
「え、ちょっと…」
「お前なら出来るだろ。だいたいお前を連れてきた理由がそれだからな」
「……まさか伊達って機械オンいたっ」
再び叩かれて、図星だったのか伊達は怒って部屋を出て行った。この調子で毎日叩かれたらいつか脳細胞が死滅するかもしれない。
その調子を見ていた儚げ美人さんはまた微笑んで、これからする作業の説明をしてくれた。どうやら持ってきたフロッピーにある名簿を写すようなことをすればいいらしい。ひとつひとつ丁寧に教えてもらっていたのだが、半兵衛と低い声が彼を呼び「失礼」と去っていってしまった。声の持ち主はすごく体格のいい人だ、あれはきっと豪快なバタフライの選手に違いない。
しかし困った。彼がいなければ操作の仕方がまったく分からない。ああだこうだ項垂れていると、こちらをじっと見つめる河内高校の男子。それとなく助けてくれと視線を投げかけてみたが、彼にふいと目をそらされた。そのまま去っていくのではすっかりしょげてしまう。
「、お前も来てたんだなァ」
「元親くん!!」
まさに天の助け、女神の思し召し、地獄で仏にあったよう!瀬戸内高校の選手登録に来たのであろう元親くんがそこに立っていた。彼はちらりとパソコンの画面とを見比べると状況を察したらしい。
「風魔が言うから来てみたが…大方操作の方法が分からない、だろ」
「おっしゃる通りでございます。ん、風魔さん?」
「あの目立つ赤毛のやつ。無口で人見知りなんだ」
元親くんが指差した先にはさきほどの男子がドアにもたれかかっていた。ふむ、どうやら無視したわけではなくただ単にシャイだったらしい。わざわざ人を呼んでくれるなんて、しかも元親くんをチョイスするとは…いい人だ。ぺこりと頭を下げると、あちらも同じように返してくれた。親切な上に礼儀正しい。
元親くんに視線を戻すと、彼は後ろへまわってさっそく教えてくれた。
「これはだな…こうして」
「こう?」
「…違うっつーの」
ところが彼の使う用語が専門的すぎていかんせん分からない。元親くんが機械に強いのが少し意外だった。
面倒くせぇ、と呟くと大きな手のひらがマウスを持つ手に添えられた。びっくりする間もなく説明しながら作業を進めてくれる。一方わたしは聞いちゃいなかった。それよりも重なる手に目が自然と向いてしまい、ドキドキが止まらない。この手は絶対に洗うまいと思った。
(090806)
新キャラを入れ込みすぎたかしら…、本当は佐助も入れる予定だったんですが。