keep our fingers crossed.
大会会場は少し離れた越後高校だった。当日の駅前に集合とメールには書かれていたのに、案の定遅れる人物がいた。言わずもがなお騒がせな前田慶次である。何度もメールや電話を入れて催促していたらようやくその十分後前田は到着、予定時刻よりも早めに集合をかけておいてよかったなと片倉先生は言った。
残念ながら越後高校は駅からバスはもったいないけれど徒歩には少し遠いという微妙な位置にあった。都立でもある婆娑羅高校のメンバーは迷わず徒歩を選ぶことにした。金銭面もるが、押し寄せる他の高校のせいでバスが混みに混んでいる状況にうんざりしたからだ。
ところがそれは想像したよりもこれがまた遠いのなんの。30度という暑さのせいもあってかますます歩くのが辛い。段々片倉先生の道案内も信用できなくなったほど。はじろりと早く着かないのがまるで前田のせいであるかのように睨んだ。
「前田が遅くきたから!」
「本当に悪かったって」
「途中でコンビニあったら前田持ちだからね」
「ええっ…そりゃないよ」
「文句言わずにハーゲンダッツよこせ」
伊達は勝ち誇った顔で目の前に見えたコンビニを親指で示した。がっくりと肩を落とした前田の財布は交通費を残して露と消えたのである。彼にはまつ姉ちゃん特製のお弁当があるのは分かっていたので遠慮は無用だ。
そして坂を登りきるとついに越後高校は姿を現した。地図上では近く見えたが、この坂のせいでこんなにも遠く感じたのだろう。と真田は喜びを体で精一杯表すように門へ直行した。
それを横目に無情にも伊達は彼らと違う方向へと足を進めたのであった。彼らが直行したのは校舎であって、本来の目的はプールなのだ。猿飛はため息をつきながらと真田を呼び戻しに走ったのだった。大会が始まる前に体力を早くも消費してしまっているなぁ、と感じずにはいられない。
プールは体育館の屋上に位置している。体育館の壁にはひとつひとつ高校名が書かれていて、そこが荷物置き場らしい。婆娑羅高校と書かれたところで伊達と前田は既に荷物を広げ悠々と団扇を扇いでいた。
「伊達の馬鹿、鬼畜、非道!どうして教えてくれないのよ」
「先に突っ走るテメェらが悪い」
「ううっ、わたしにはもう真田しか味方がいないわ…」
「殿、共に全力を尽くしましょうぞ」
「ちょっと迎えに行ったのは俺様でしょーよ」
全員揃ったところでアップをするためにも水泳道具を取り出す。荷物見張り番は片倉先生だ。その間にストレッチ用のマットを敷いてくれた。そうして準備万端というところで、伊達が声をかけた。
「おい、円陣やろうぜ」
その言葉に真田と前田は目を輝かす。逆にと猿飛はええっと声を挙げた。この少人数で青春ごっこをするのには人が多すぎて恥ずかしいのだ。伊達はbasara swimming teamと語呂が入ったジャージを全員着るように強制して、無理矢理円陣を組ませた。まわりからの視線に羞恥心をかきたてられる。
「勝利をもぎ取るぞ!」
「お、おー!!」
それから伊達は人差し指の上に中指を重ねて十字を作り、にっと笑った。
(090823)
これ伊達夢かと思うくらいしゃしゃりすぎの伊達くんがした行動は、幸運を祈るというジェスチャーです。昔国語の教科書の中にそういった話があったのを思い出して載せてみました。