お立会いくださいませ


アップの時間は意外と短い、それゆえに混雑もしている。越後高校のプールは会場に選ばれただけあって整備が行き届いていた。飛び込みとターンの具合を確かめておくためにもはプールサイドの列に並んで待つ。
すると見慣れた人物が今まさに飛び込もうとしていた。元親くんだ。素晴らしく綺麗なフォームで豪快に飛び込むさまに見とれてしまう。久々に姿を拝めて眼福だなぁと頬を緩めると、後ろからなぜわかったのか猿飛に急かす様に押された。
飛び込み台に発つ前にきっちり帽子を深くかぶってゴーグルもきつくした。飛び込んだ衝撃で取れると悲惨なことになるからだ。それから後ろの猿飛に合図をしてもらい、勢いよく飛び込む。少し深すぎたけれどこれなら失敗にはなるまい。
そのままフリーで25メートル泳ぎ切ると誰かの手が差し出された。泳ぎ終わっていた元親くんの手で思わず胸が高鳴る。その手をとってプールから上がれば「よォ、久々だな」と気さくに話しかけてくれた。

「うん…元親くんは何に出るの?」
「俺は半フリと1フリだな、は」
「わたしは半フリだけだよ」
「そっか、お互いに頑張ろうな」

そう言って近くの椅子に置いてあったセームを元親くんは取り、更衣室の方へ歩いていく。しかし途中で足を止めて思い出したようにを振り向く。

「そういやその水着、似合ってるな。俺は紫色好きだぜ」

本当に計算なのか天然なのか、どちらにせよ嬉しいことを言ってくれる。は熱を冷ます様に急いで近くのレーンに入って全速力で泳いだ。


一旦ジャージをまた来て体育館に戻ると、片倉先生はプログラムを持っていた。興味津津でみんなはそれを見る。既にわたしたちが出る種目の場所に蛍光ペンでアンダーラインが引いてあり見やすくなっていた。
開会式があってそれから最初はメドレーリレーだ。その次に半バタが前田、半ブレに猿飛、半フリに伊達と真田とわたし。最後の締めくくりにフリーリレーがある。なかなかハードスケジュールだ。

「はあ〜、リレーの次にすぐやるだなんてついていないねぇ…」
「いつものことでしょう。頑張ってね、前田には期待しているんだから」
「笑顔でプレッシャーかけないでくれよ」

前田は苦笑してそのままマットに寝転がる。開会式をさぼる気満々だ。ちらほらと体育館を出ていく人がいるのでそろそろだろう。

「Ha,メドレーリレーは俺がフリーだ」
「某でござる」

どうやらこの二人、まだ決着がついていなかったようだ。


(090724)

飛び込みのコースは25メートル泳いだら上がらないといけないんです。半フリは50メートルが1に対して半分の25メートルのことを指します。個メは個人メドレーの略。