We Are The Winners.


「ったくあれは反則つーか化け物並だな…」

と、伊達は悪態をついたがその顔は晴れ晴れとしていた。元親の実力を認めざる得ないというか、彼と泳げたことを誇りに思うような顔だ。それでも次は負けないと言った気持ちの切り替えの早さは彼のすごいところだ。

「いよいよ最後の見せ場、フリーリレーだ。Are you ready guys?」

その問いかけに聞かれるまでもないと皆笑顔で頷く。たくましい背中を見せて彼らは招集場所へ向かった。

「いいなぁ」

ぽつりと本音が漏れた。男の子はずるい、わたしたちが一生懸命泳いだタイムを軽く乗り越えていく。それにリレーが泳げることが何より羨ましかった。四人いなければ当然泳ぐことなんて出来ないのだ。
独り言だったつもりが隣にいた片倉先生には聞こえたらしい。

「お前も来年女子部員を増やして出場すればいいじゃねぇか」

それもそうだ、と思う。来年はポスターや宣伝を頑張ってみるかと気持を入れ替えて、今度はちゃんと婆娑羅チームのコースを陣取った。心の中では優勝などまずあり得ないと知っていた。人数的にもわたしたちは劣る。けれど何かしら自分たちの優勝を得たいという気持ちがあった。だからこの最後にかけている。

「第四のコース、婆娑羅チーム、前田・猿飛・真田・伊達」

フリーリレーだから順番は各自で話し合って決めた。やはり部長かつタイムが一番速い伊達をアンカーに、前田は自ら名乗りを上げて一番手、真田はなるべく後ろにと三番、猿飛はそうして自然と二番へ位置づけられたといったところか。
隣には屈強そうな瀬戸内や河内高校も揃っている。

「わたしもいいか?」
「かすが!」

女子のフリーリレーは既に終わっていて、越後高校が一位を獲得していた。女子高故に男子の方は誰を応援したって構わない心境なのだろう。かすがも応援してくれることが嬉しくてもちろんと了承した。

まずは一番手が勢いよく飛び込んだ。やはり最初は肝心、もちろん速い人ばかりだ。前田はスタイル1はバッタだけどクロールも同じくらい速い。真田に負けず劣らずの泳ぎっぷりだ。

「前田、いけいけ〜!」

他のチームに負けないように声を張り上げる。応えるように前田は瀬戸内と並んでタッチした。そして猿飛が絶妙なタイミングで引き継ぐ。嫌嫌ながらも毛嫌いしているはずの猿飛をかすがは応援してくれた。

「貴様負けたらただでは済まさん!」
「か、かすが…もっと優しく」
「あいつにはこれくらい言わないと駄目だ」
「随分と気の強い嬢ちゃんだな」

片倉先生は苦笑しながらもちゃんと記録を取っている。いよいよ真田の出番となった。あの失敗を繰り返さないためにもと意気込んでいる様子が分かる。しっかりと猿飛がタッチするのを確認して彼は飛び込んだ。
さきほどのクロールも全力を出したはずなのにまだ体力があるらしい。力の限り泳いでついに瀬戸内を抜かした。

「すごい真田!やれば出来る男!」

そのまま離していき、全速力で戻っていく。殿を務める伊達は華麗な引き継ぎを見せてなめらかなフォームでこちらへ泳いでくる。遅れて瀬戸内の大取である元親くん、河内の豊臣も飛び込んだ。
元親くんのクロールが神がかった速さなのは周知の事実だがそれまでに婆娑羅が積み上げてきた差があった。伊達は前へ前へとさらに速くなる一方で、元親くんはその差を埋めるべく泳いでいる。豊臣も引けをとらないがやはりその速さに追いつくので精一杯だ。

「…っ、ラストだよ伊達!頑張って!」

喉が枯れるほど痛いけど伊達の方が苦しそうに見えた。だけどそれは先ほど一位を取った元親くんも同じで辛そうに見える。疲れからか呼吸の回数が速くなったがそれでも最後は逃げ切って婆娑羅は一着をもぎ取った。
はかすがと抱き合って喜び、男子たちも肩を叩きあって喜びをあらわにする。

太陽が水面に反射して眩しかった。


(090924)