きらきらの夏は続く


プールサイドは人でいっぱいに埋め尽くされていた。各校全員が体育館から出てきて集結しているのだから当然と言えば当然だ。最後につきものといえば閉会式、つまり結果発表が待っている。
期待を胸に固唾を飲む中行われた種目順に発表されていった。まずはメドレーリレーで瀬戸内と越後高校が男女で表彰される。急ぎ造られたような危なっかしい椅子の台で三位まで賞状が手渡された。

「男子50Mバタフライ二位、前田慶次くん」
「はいよっと」

少しだけ悔しさを見せながらも笑って前田は豊臣の隣に並んだ。再び彼は豊臣に握手の手を求めた。だが最後まで彼はそれを取らない。まったくあいつは頑固だよなぁ、と前田は苦笑する。

「男子50M平泳ぎ一位、猿飛佐助くん」
「どうも〜」

いつもの飄々とした笑顔でアナウンスのお姉さんを悩殺していく。はあ、と会場からわずかに女の子のため息が聞こえた。さすが計算たらし、天然ではないところがまた末恐ろしい。そしてわざとらしく本部に寄り道して上杉先生と話すところがまたかすがをいらつかせていた。
そしてバックでは風魔くんが平泳ぎ二位に引き続いて表彰されていた。彼はどれだけ万能なのだろうと驚く。女子のフリーではかすがが一位を取り、上杉先生に頭を撫でてもらって至極満悦そうに帰ってきた。

「男子50M自由形一位、長曾我部元親くん」
「おうよ…野郎供、鬼の名前を言ってみな!」
「うおおおモ・ト・チ・カ!!」

賞状を受け取るなり瀬戸内の方を振り向いてコールを促す。それをじとりと悔しそうに、だが苦笑いして伊達と真田は表彰台から眺めていた。
その代りフリーリレーでは今度はこちらの出番だった。すました顔で一位の賞状を受け取っている伊達だが内心は嬉しいに違いない。

とうとう最後の最後、総合発表が行われた。後ろから順に発表されていき各校で声が湧きあがる。婆娑羅高校は七位に終わったがそれでも弱小水泳部にも関わらずここまでいけたのはすごい。お互い喜び合ってハイタッチをする。河内は三位、越後は二位、そして誰もが予想していた通り瀬戸内高校が一位を獲った。
意気揚々と再び元親くんは表彰台へと上がった。誰もが賛辞を挙げて祝福する。アニキ、アニキと会場が割れんばかりに声が響いた。心地よさそうに元親くんはそれを受けて、それから勝手にお姉さんからマイクを奪い取った。

「俺はこの大会が終わったら言おうと決心していたことがある」

真剣な面持ちでこちらを向いて言うからドキリとする。生徒たちの声は止まない中で声を張り上げて元親くんは叫んだ。

が好きだ」
「!!」

どよめきが走り、やんやと囃し立てるように口笛が鳴る。まったく彼はそれに臆せずざぶんとプールへそのまま飛び込んだ。
恥ずかしさと周りの視線に胸が苦しい。行って来いというように背中を押されて、もう着替えたのにと思ったが腹をくくって飛び込んだ。わあ、と歓声が上がる。羞恥心から元親くんの傍に来た時ばしりとその鍛え抜かれた胸板を叩いてやった。

「な、なにもこんなところで言わなくても…!」
「ハハッ驚いたろ?なら成功だ」

反省もしていない様子で元親くんはわたしを抱きしめた。もうままよ、と思いながらわたしはその胸にすがりつく。その後先生たちに注意されて、生徒たちの間で有名になったのは言うまでもないだろう。
すごく恥ずかしかったけれど何よりも嬉しかった。

「夏で一番の思い出かも…」
「なんだァ、気が早いな。思い出なんてこれからいっぱい作るんだからよ」

きらきら光を受けて元親くんが眩しい。まだしばらくこの幸せに浸っていたいてもいいよね。


(090924)

最後まで読んでくださいましてありがとうございました。正直最後は書いていて自分でも恥ずかしくなりました…。