期待膨らんで


その次の日は業者が来たので、当然ながら練習は中止になった。どうせまた毎日部活があるのだから、今のうちに宿題をやっておかなければとは取り組んだがすぐに飽きてしまった。何度も部長から連絡が来ないかなとちらちら携帯を見る。ようやく夕食前になって伊達から全員宛のメールが送信された。内容はしばらくプールが使えないこと、今後はどうしていくかは片倉先生と話し合って決めるとのこと。
えええ、と一人落胆してすぐさま猿飛に電話をかけて愚痴をこぼした。さんざん部活動の時間を減らせと文句を言っていたのに、なんだかんだで泳ぎたいようである。

「じゃあさ、市民プールで泳ぐ?」
「あ、ナイスアイディア!みんな誘って明日から行こうよ」
「…どうせ俺様がみんなにメールまわすんでしょ」
「分かっているね猿飛くん」

そういうわけでその場しのぎに市民プールで泳ぐことになったが、毎日というのは厳しかった。市民プールといえども金は取られる。毎日積み重なるとそれは馬鹿にならない値段になるのだ。
すると登校日前日にまたメールが来た。明日プール道具持参とただ書かれていて、いったいどこで泳ぐのかと疑問を持つがどうせ分かることだろう。は慌てて昨日そのまま放置していた水着を洗って干すのであった。


久しぶりの友達とわいわい話しながら、アヒルさんを免れたはさっそくプール道具を持って自転車置き場に集合した。着いた途端「遅い!」と片倉先生に一喝される。伊達よりも怖いその形相にいつもの言い訳も出てこなかった。
みんな自転車をひっかけて(真田は近所のため徒歩だから、ダッシュだ)、片倉先生の後についていく。果たして着いたのはいつぞや寄り道した瀬戸校だった。

「む、…こ、ここはあの、瀬戸…」
「旦那、呼吸を落ちつけてからしゃべったら?」

さしもの体力馬鹿の真田も熱さのせいか息切れしている。いつものなら優しく世話を焼いてあげるが、いまはそれどころではない。目は爛々と輝いて、君が悪いくらいにこにこしている。
瀬戸内高校に着いたとき、ようやっと片倉先生は説明してくれた。なんでもここの精鋭部の顧問にお願いして、塩素が直るまで一つだけコースを貸してもらえることになったらしい。それはつまり隣で例の長曾我部元親と一緒に泳ぐ時間を共有することになるのだ。

「どうしようどうしよう、何て挨拶したらいいんだろう!」
「舞い上がって失態を犯すなよ」
「…伊達って人のテンションを下げるの得意だよね」
「coolと言ってくれ」

心臓を落ち着かせて、おそるおそる瀬戸校の門をくぐった。片倉先生は先に顧問同士で話をしに行き、伊達に続いてまずはプールを覗く。

「…あれ?」
「Ah-han,どうやら先鋒は今日absenceらしいな」

伊達の言葉に衝撃を受け、はがっくりと肩を落とし、猿飛はそっと笑みを浮かべた。そう、瀬戸校水泳部は残念ながら誰もいなかった。


(090719)