思わぬハプニング


瀬戸校のプールはわたしたちの高校よりもコースが多くて、広々としていた。ただしそこは男子校なので少々不衛生な面もちらほらと伺える。更衣室はひとつしかないため、先に男どもは着替えていた。は足だけをプールに浸し、ぼんやりと考え事をする。もちろん明日こそ元親くんに出会えるのだから、頭の中はそれでいっぱいいっぱいだ。どう声をかけようとか、どんな服を着て行こうか、どの水着にしよう、など想像が膨らむ。

「お待たせ〜」
「遅いよ、猿飛!」
「だからごめんって。あ、なんだったら着替えの手伝いしてあげようか」
「……」
「せめて反応してくれないかな…俺様しょんぼり」

冷ややかなの視線を受けて、わざとため息交じりに肩を落とす猿飛に真田による正義の鉄槌が下された。どうも彼の前でこの手の話をするとダメなようである。こちらとしてはざまあみろという気持なので全然構わないのだが。べーっと舌を突き出して、急いで更衣室のプール側の鍵を閉めて着替えを取り出した。もちろん誰も見ているはずはないけれど、いつもの習性でタオルを体に巻く。男の子はどう着替えているかなど知らないが、女の子はやはりタオルを使用するのだ。恥じらいは捨てられない。
よいしょ、と人知れず声を出して水着を半分着れた時だった。唐突に入り口のドアノブがガチャリと独りでに動いた。

「……え?」
「お?」

入ってきた銀髪の男にはこれでもかというくらい目を丸くした。同じく向こうも予想外だったのか驚いた顔をしている。しかしどちらもすぐに状況を理解して、顔を赤らめた。

「あので、出てってく、ください」
「す、すまねぇ…!!」

バタンとすごい勢いでドアが閉った。ああ、入り口側のドアの鍵を閉めておけばよかったと、火照った顔を沈めるように頬を抑えながらは後悔した。元親くんに着替えを見られるなんて、まったく考えてもみなかった。どどどうしよう、ダイエットしておけばよかった!少し沈みながらも水着を着て、セームで隠しつつ元親を招き入れたのだった。


プールサイドに上がると、途端に集まる視線。猿飛は誰か気づいたようで、警戒するようにじとっと睨む。一方元親のことを知らない伊達と真田は疑問符を浮かべながら元親を見る。自ら元親は自分の名前を名乗って、ここの部長だと告げると伊達と握手する。

「今日休みだって知らなくってな、邪魔してわりィ」
「いや、こっちは借りている身だ。それに俺らには広すぎるからな、あんたも一緒にどうだ?」
「ちょ、伊達の旦那…!」

冗談じゃないと猿飛は顔色を変えたが、既に伊達と長曾我部は意気投合していて口出ししようにも出来ない雰囲気になっていた。おまけに隣の真田は目を輝かせ、尊敬の眼差しで見ているではないか。

「某かねがね長曾我部殿の噂を聞き及んでいる。ぜひ指導していただきたい」
「あ、わた、わたしも!」

真田に便乗して申し出ると、おう、と気前よく快諾してくれた。に向き直ると元親は改めて詫びを述べ、くしゃくしゃと頭を撫でる。

「さっきの罪滅ぼしのためにもきっちり指導してやるよ!」
「それは忘れてください…」


(090721)

セーム⇒吸水性に優れているタオル