お遊びは計画的に


部活がオールなのは変わらないが、その代りお昼の時間は長くとってある。食べ終わった後は結構プールでみんなと遊ぶのがひそかな楽しみだ。そんなある日、夏休み中に顔すら見せなかった幽霊部員こと前田慶次からメールがきた。婆娑羅水泳部全員に一斉送信しているらしい。今日はお昼を持ってくるな、とそれから楽しみにしていてくれよ、にイラッときたにこにこマークの絵文字。お昼をなくして何を楽しみにしろというのだと突っ込みたかったが当然やつが何か用意してくれることだろう。
しかし次の日、前田の姿は朝見つからなかった。

「あいつ昼から来るつもりに違いねぇ…とっちめてやる」
「おーおー、ぶっそうだなァ」

伊達は腹いせに電柱を蹴っていたけど、当然彼の足へダメージが返ってくるのでますます苛々していた。元親くんは前田に会うのは初めてだから少し楽しみにしている様子が見て取れる。なんか…わたしまでむかついてきた。会ったら殴ってやろう。
マイケル・フェルプスの練習方法を取り組んだ午前メニューを終わらせると、お腹がぐうと鳴る時刻になった。シャワーを浴び、ジャージを来て上に行くと元親くんと談笑する前田がいた。お腹がすいた上に元親くんと親しく話しているなんて、と苛々が頂点に達して出会いがしら頭をばしっとはたく。たいていこれが伊達だと二倍返しされたり、猿飛だと頬をつねられるけど、前田は自称フェミニストなのでやり返しては来ない。

「いって…!ちゃん、女の子はもう少しおしとやかに、ね?」
「それよりお昼はどうしたのよ、あと元親くんから半径一メートル以内に近づかないでちょうだい」

最後は本人に聞こえないようにひそひそと話すと、その意図を察したのかにまにまと笑いながら前田は返事をした。返事だけはいい。

「それじゃあお待ちかね、お昼といきますか!」
「何仕切ってやがる。もったいぶらずさっさと出しやがれ」
「ちょっとちょっと政宗まで殴ることないだろー!」

管理室から出てきた伊達に今度は殴られていた。ぶつぶつ文句を言いながら、前田は持っていた荷物を広げる。出てきたのは素麺につゆ、それからタッパに入った薬味。そして最後に大きな西瓜が姿を現す。おお、と真田は涎を垂らしそうなほど嬉しそうに叫ぶ。そういえば彼は見かけによらず大食いなのだ。

「夏ときたら流し素麺、それから西瓜割り。どうだい、風流だろ?」
「Ha、前田にしちゃ気がきくな」
「相変わらず手厳しいね〜」
「おっ…こりゃあなかなか楽しそうじゃねぇか。俺もいれてくれや」

元親くんが西瓜を吟味しながらにっと笑う。か、かっこいい…と思わず見惚れてさっきとは打って変わって前田ありがとうと呟いた。そこへ今まで黙っていた猿飛がじっと素麺セットを眺めて、ついに重い口を開いた。

「それはいいけどさ、これどうやって流すわけ?」
「……」
「いっけね、忘れてた」

あははと前田の乾いた笑いに、直後伊達のキックが見事鳩尾に決まる。


しょうがないから職員室からボールを借りてきて、流すことは諦めみんなで取り囲み食べる。こうして水泳部全員が揃うのは久しぶりのことだ。それもこれも前田がふらふらと遊び呆けているせいだけど…そのくせタイムは落ちないから羨ましい。
それが終わると、プールサイドで西瓜割り大会が始まった。なんと前田はマイクまで持参して中継する。まず最初に真田くんが立候補して意気揚々と西瓜に挑みかかった。

「ちげえよ、もっと右だ」
「む…こっちでござるかあああ!」
「あっ馬鹿」

だが悲しいかな、一直線の彼はまわりの言葉が耳に入らず見当違いの場所へ棒を振り下ろしあっけなく次の方へ。得意げに次は伊達が挑んだが、冗談交じりに猿飛が嘘を吹きこみこれもまた外れる(猿飛と伊達の鬼ごっこが開始した)。するといよいよ元親くんの出番で、いっせいにアニキと割れんばかりの声がかかる。彼らのすごい声援で順調に元親くんはすすで行く。ちょうどいいところに来て、「そこだよ!」と声をかけると、

「おっしゃ…ここか!」

見事に西瓜は真っ二つに裂ける。湧きあがる拍手に、一斉にわらわらと西瓜に人が群がる。そこを脱出した元親くんがわざわざ西瓜をひとかけら持ってきてくれた。

「ほら、勝利の女神さんにやるよ」
「…ああありがとう!」

嬉しくて大切に食べようと決意した瞬間に、走り回っていた猿飛がぶつかってきて無残にも西瓜はプールサイドとこんにちはをしたのだった。全力で猿飛を追いかけ、伊達と挟撃し、彼はプールに沈んだのであった。


(090726)