作戦会議(ver.猿飛)
時計は午後三時、学校の近くにあるお洒落な喫茶店で待ち人を探していた。すると間の抜けたような声で「ちゃん、こっち」とひらひら手を振る猿飛を発見、慌てて向かい側の席に座る。三十分遅刻してしまったというのにお咎めはなくむしろにこにことしているのが不気味だ。
「お、遅れてごめんね?」
「んーん、構わないよ」
いつもなら嫌みのひとつでも平気で言う猿飛が…、と不審に思いつつもさっそく注文をしてわたしは猿飛と向き合った。
「それでお呼び出しのご用件は?これってもしかして俺様とデー」
「元親くんにお近づきになりたいドキッ乙女大作戦の会議であります、猿飛参謀長官殿」
「……とりあえずそのネーミングセンスは置いといて、佐助くんって呼んでみようか」
「今更?」
まるで見せつけるかのように落胆ぶりを表して猿飛は長いため息を吐いた。やっぱり厚かましかったかな。でも猿飛は女子との噂は絶えないことから考えるとやはりこういう相談が適役、と思ったのだけど。
「あー、すっごく傷ついた…このまま帰りたいな〜」
「帰るなら案を出してからにしてね、佐助くん」
「わざとらしい」
せっかく呼んでやったというのにいちゃんもんをつけるとは何様のつもりだろう。だいたい一人称に様を付けているからろくでもない人物とは以前から思っていたけれど。
「ちゃんとこないだは助けてもらったお礼も兼ねて今日はおごる予定だったのに…佐助くんったらひどい!」
「え、まじ?あれはあれでちゃんの泣き顔が見れたから得したから別に気にしなくていいよ」
「わーっ!そ、それは内緒にしてて」
まさか気づかれているとは思わなくて急に恥ずかしくなる。しかしつったものは痛いのだからしょうがない。不可抗力と言えばそうなのだが、他人に泣き顔を見られるのは抵抗があるのも道理。そんな葛藤を続けるに猿飛はシーッと人差し指を唇にあてて宥める。
「ちゃん、声大きい」
「…ううこんな男に見られるなんて」
「いい男を捕まえといてこんな呼ばわりするって本当にいい度胸してるよね。それで、旦那とは上手くいってるわけ?」
すっかり話が脱線して当初の目的を忘れるところだった。気を取り直したものの、いざそういう話をするのは気恥ずかしい。
「も、元親くんとはその、いつも部活で話す程度しか…」
「メールは?」
「えっ…恥ずかしくてメルアドなんか聞けないよ!」
「聞いてないの!?」
猿飛は驚いて声を荒げ、今度はにシーッと窘められた。ストローをがじがじ噛みながら、そのまま心底驚いたといったように目を丸くしてを見た。彼にとっては何でもないことでも、にとっては一大決心くらいに勇気がいる。好きな人と話をするだけでもドキドキするのに、特にメールする用があるわけでもないのにメルアドを教えてと言えるわけもないのだ。
「ふーん、俺様にもまだ可能性はあるってわけか…」
「ん?」
「こっちの話、まあそれくらいなら協力してあげてもいいよ」
携帯出して、と指示されてよく分からないけどそれを猿飛に渡す。それを自分の携帯とくっつけて何かを受信しているようだった。返された携帯の画面に映っていたのはアドレス帳のた行に乗った長曾我部の文字。
「こ、こここれっ」
「旦那には教えたことメールしてあげるから、後は自分で何とかしなさい」
「そんなこと言われても!」
おまけに電話番号や誕生日まで載っていた。猿飛と元親くんはどこか仲が悪そうに見えたけど、いつの間に聞き出していたのだろう。しかし突然メールを彼に送るといっても嬉しいけど何を送っていいのやらさっぱりだ。意地の悪い彼は笑って好きですでも書いたら、と茶化すけど突然そんなもの送れるわけがない。
「旦那にメールしといたよ〜」
「後に引けないじゃない、ばかっ」
その夜逆上せるまでお風呂に入って内容を考え、結局ありきたりな内容しか書けなかった。それでもすぐに元親くんからメールが返ってきて、明日も頑張ろうなという言葉に励まされすぐに保護をかけた。ドキッ乙女大作戦の効果は抜群であります。
(090730)
アニキは筆まめだとは思う、それに案外絵文字とか使いそう。メールだとこんななんだ!って相手に意外がられるタイプ…とか妄想してみる。
猿飛が不憫なのは仕様です。しかもいいように利用されてますます不憫に磨きがかかっているけれど仕方がない。