日本古来の面影を残す町並み、学生にはいくらか高い人力車の宣伝声、はんなりと歩く芸者さん。まさにそこは京都だった。
修学旅行としては定番といえよう。わたしは同じグループの女の子たちの後ろを一歩距離をとって歩いていた。何せ彼女たちときたら、通り過ぎる他校の男子たちを見てはきゃあきゃあと騒ぐのだ。
「ほらアンタも見なさいよ。あの男の子特にかっこいいわよ、あっ、こっちを見たわ!」
「へーへー」
「…もう、何しに京都へ来たのよ」
まさにこちらの台詞である。さも興味ない顔をすれば彼女たちも諦めたのか、再び男子グループに目を向けた。
本当はもっと歴史ある建物を眺めたかったのになぜ自分はこうして土産街を歩いているのだろう。多数決というのはおそろしい。
はなんとはなしに目を向ければ随分古風な店があった。興味をそそられて店頭に近寄る。
(わ、…きれい)
職人技とも言える細工が施された簪が理路整然と並んでいた。その中で一際目に付くやや年代ものそうな簪をは手に取った。
「えっ…?」
人肌に触れて溶ける雪のように、簪はさらさらと音を立てて崩れる。小さな手のひらから我先にと砂が零れ落ちた。やだ、なにこれ。気味が悪くて思わず後ずさりする。
「おっと」
「あ、ごめんなさい」
その拍子に誰かと背中合わせになった。慌てて振り向きは謝る。首が痛くなりそうなほど随分大柄な男の人だった。女の人かと見紛うくらいに長い髪をひとつに後ろでくくっている。しかしそれよりも衣装はもっと目を引いた。色とりどりの派手ではあるが、彼だからこそ似合う服装。アクセントにつけられた羽飾り、背中にレプリカだろうか、大剣を含め、まさに歌舞伎者と呼ぶに相応しい出で立ちであった。
「嬢ちゃん、随分と不思議な格好をしているねえ」
ぽんぽんと優しく笑う男はの頭を撫でる。わたしから言わせればそちらこそ京都にしたって気後れするような格好だ。
「あなたほどではないです」
「そうかなァ?」
照れるねえ、と的外れなことを男は言う。それを嗜めるように肩から這い出てきた小猿が男の頭をはたいた。くりくりおめめのかわいいお猿さんに思いがけず場が和む。
「しかし若いお嬢さんが一人でどうしたんだい」
「ああ、いま友達と」
問われて彼の先を見据えれば、その異様な光景にぎょっとする。確かに京都だ。だが京都にしてはあまりにも時代を遡り過ぎている。人々は皆一様に和服で、祭なのか神輿を担いでいた。修学旅行生である学生服の者など人っ子一人見当たらない。
「…ええっと、どうやら迷子のようです」
(101230)