ここに来てから思ってはいたが、随分と京の町は賑やかだ。目の前で楽しそうに少女たちが駆けていく。

「ああ、今日は縁日なんだ。ちょっと見てみるか!」

頷く前に慶ちゃんはぐいぐいと手を引っ張った。うわ、大きな手。わたしのがすっぽりと彼の中に納まってしまっている。
人混みを縫うようにして進み、立ち並ぶ店を眺めていった。しばしば慶ちゃんは声をかけられ、かつ女の子に持て囃されている。確かに、彼があちらにいようならばあの子たちも間違いなく振り向くほどの男前だろう。それに元々顔も広いようだ。

「注目の的だね」
「アンタがかわいいからさ」

ぶつかりそうになったところを、肩を掴まれて吸い寄せられる。女性の扱いに慣れているなあ、と思わず感心してしまった。

「あ、金魚掬い」

露天のひとつが視界に入る。赤い金魚がひらひらと泳ぐ様が昔を思い出させた。

「やるかい?」
「わたし下手だから…」
「おじさーん、ポイ二個頂戴!」

にこにことした顔でそのうちのひとつをわたしに手渡す。わたしは開き直って、水に視線を落とした。

「えいやっ」

狙いを定めてポイをつける。小さな金魚が掬えた、と思ったら紙を破られてしまった。どうにも自分には向いていないと匙を投げて落胆する。
隣を見れば、ほいほいと慶ちゃんは金魚を実にいいリズムで掬っていった。

「すごいなー」
「こういうのはコツがあるんだよ」

慶ちゃんはわたしに自分のポイを持たせると、背後に回る。首筋にかかる息と重なる右手にドキッとした。

「まずは必ず頭の方から掬ってやること。尾で破れちまうからね。なるべく平行に…」

頭が混乱して上手く言葉を拾えない。それでも、さあやるよ、という掛け声で一緒に水の中へ素早く入れる。そうして一気に三匹を鉢に収めた。明らかに慶ちゃんの力だが、嬉しさがこみ上げる。

「ありがとう!」
「どういたしまして、お安い御用さ」

振り向いたら意外に顔が近くて、まだドキドキが収まらないのは内緒だ。


(110215)