「あ、あの出来ました」
「遅い!」
「うっ…すみません」

ちらっと三成の顔を伺うと深く眉間に皺を寄せていた。如何にも不機嫌といった様子でため息をつく。なんということをしてくれたのか、恨みます秀吉さん。
そもそも勉強が出来ないからと秀吉さんにご教授願おうと思ったのが間違いだった。
豊臣家は親しいお隣さんで、人の良い夫婦、優秀な息子たち、評判も大変よい。
ところがひとつ問題があって、幼なじみにあたる三成とわたしを二人の両親がなんとかくっつけようとしていた。
容姿端麗、文武両道と名声を欲しいままにしている三成は確かに申し分ない男だったが、天は二物を与えず。口が悪く、小さい頃いじめられたこともあってわたしは彼が苦手だった。親や近所の前では敬語も欠かさず模範生も真っ青なくらいなのに…どうしてわたしだけ。

「おい貴様、いま無礼なことを考えなかったか?」
「いえ滅相もございません」

つまり簡単に言ってしまえば秀吉さんは勉強を教えてくれというお願いに対して、この息子をわたしに寄越した。
それはそれはスパルタ教育がお得意な三成さまを、だ。

「ふん、こんな簡単な問題を間違えるとは…学校で何を教わっているのかたかが知れる」
「面目ない」
「仕様がないやつだ、この俺が直々に教えてやる」

わたしの字の横に綺麗で几帳面な字が書かれる。まるで魔法のようだと思うくらいあっという間に問題を解いて見せた。

「すごーい!」
「阿呆のように口を開いて見るな、みっともない。貴様もおなごの端くれならもう少し磨いてみろ」
「…磨いても別に見てくれる男もいませんから」

ぐちぐちとうるさい三成の嫌みをかわして書かれた方程式を睨みつける。まったく分からないことに苛々した。

「俺が見るだろう」
「はいはいそうです、ね…?」

はたとペンの手を止めた。あれ、いまこの男は何と言った?問いただそうとしたけれど、三成がおもむろに出した包みによって別の言葉が出た。

「なにこれ」
「貴様は今日誕生日だと聞いた」
「そうだけど…えっ!」

あの三成がわたしに贈り物?生まれてこのかた起きたことのない不測の事態に驚く。明日は雪が降るのではないか。
さっそく中身を見れば、それは高そうなかわいいネックレスだった。これを三成が買った?ありえない、ありえないけど現実らしい。

「寄越せ、付けてやる」
「い、いいってば!」
「何を今更恥じらうのだ、俺の親切を無碍にするとはいい度胸だな」

そう凄まれて言われれば親切を受けるしかない。ドキドキしながら三成に背中を見せた。ひんやりとした三成の指が首筋に触れてくすぐったい。

「ネックレスを贈る意味を知ってるか」

不意に三成が尋ねた。もちろんわたしは知るはずもなく首を横に振った。三成は小馬鹿にしたような笑みを浮かべる。

「束縛したい、だ」


(091226)

好きな子ほどいじめたい理論の三成さまでお送りしました。まちこちゃんへ!
本人のみお持ち帰りおk