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彼は放浪癖があります 次の日、政宗はいつもどおりわたしの家のリビングで寝そべっていた。眠そうにあくびをかみ殺す姿を見てくすっと笑ってしまう。わたしを脅かした罰だ。 ひそかにいい気味だと思っていたら、スリッパが顔面に飛んできた。痛い。女の子にこんなことをする男の子何ていないんじゃないか。 「……何するの」 「蚊がいた」 「秋に蚊がいてたまるか」 ぶつくさ文句を言いつつも安堵する。政宗の理不尽さも、今はどこか嬉しかった。そうして登校時間や昼食をまた共有することが出来て、いつもどおりの日常が戻ってきたのだ。 それから数日後、母に回覧板を頼まれた。次は政宗の家だ。ちょうど先日借りたゲームでも返しがてらに赴く。裏口のドアを叩くと、いつもならドタバタとうるさい音を上げてドアを開く政宗の気配はいっこうになかった。あれ、おかしいな?首をかしげてもう一度叩く。やっぱりひと気がない。これは留守だろうか。そう思ってドアを開けると、驚いたことにすんなり開いた。 「も、もしもーし」 返事はない。部屋も真っ暗で、政宗の家族もいらっしゃらない。留守なのに無用心な。念のために政宗へメールを送ると、件名に「閉めておけ」のただ一言。そっけなさはメールでも同じだ。 仕方ないので植木鉢の下にある鍵で裏口を閉めてやる。わたしはそれらに何の疑問も持たずに帰った。 ところが、だ。次の日、再び政宗は姿を現さなかった。お隣さん家は帰った気配がない。ちょっとしたお出かけだと思っていたがそうではないらしい。また不安が過ぎる。 「どこへいるの?_」 メールを送っても返事は来ない。筆不精なのは知っているが心配をかけるのだけは止めて欲しい。 いなくなったのは金曜日、わたしはきっと月曜日には帰ってくるだろうと踏んでいた。きっと旅行にでも行ったのだろう。旅行についてはわたしの読みが当たっていた。けれど政宗は月曜日になっても現れなかった。 「え…ヨーロッパ旅行…」 「そうそう、って。あれ、桜子ちゃん聞いてないの?」 「う、うん」 政宗と同じクラスの佐助に尋ねてみればあっさり答えが返ってきた。軽くショックを受ける。どうして同じクラス程度の佐助は知っていて、お隣さん家の幼馴染は知らないんだ。冗談混じりに佐助へ恨み言を言えば、勘弁してよと返された。 「幼馴染だからこそ、そういうのあるんじゃない?」 「意味わかんない…」 「だから、伝えなくてもあいつなら大丈夫だろう、みたいな。いやあ、政宗の奥さんになる人は絶対苦労するね」 「ばか!!」 「いってえ~、今鳩尾入ったよ!?」 「あー聞こえない聞こえない」 手で耳を塞ぎ、自分のクラスへ戻る。席へ着けば幸せが五つくらいは逃げる大きなため息が出た。寂しい、なんて思ってやるものか。 (100605)